聖女として生まれ変わることを望む私をあなたは、見つけてくれますか?

珠宮さくら

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そんなことで、ヴィルヘルミーネがいたたまれなくなって悲しんでいる時に素敵な出会いもあった。王都や各地から来た医者たちとヴィルヘルミーネは話すようになったのだ。

そのきっかけとなったのが、伝染病の発生地域まで出発するまでの準備のためにこの街にとどまることになったのだ。それは短い期間だったが、王都からきた医者たちにとっては、つかの間の安らぎの時間になるだろう。これからのことを考えて各々自由に過ごしていた。

医者の中の数人が、初代聖女の崇拝者で、初代を称えて建てられた神殿を見に来て、建物の前で感嘆していた。


「素晴らしいな」
「王都のきらびやかさと彫刻壁画のリアルな感じが、どうにも苦手だったが、やはり本来はこうあるべきだよな」
「おい、下手なこと言うな」
「っ、そうだな。悪い」
「でも、あの彫刻壁画は怖いよな」


そんな話をしながらも、中に入ろうとはしなかった。そこにヴィルヘルミーネがやって来て声をかけたのだ。


「こんにちは。皆様、ここへは初めて来られたのですか?」
「そうです。今回の伝染病で、王都からの要請で現地で治療するために集まった医者です」


ヴィルヘルミーネは、それを聞いて悲しげに瞳を揺らした。それこそ、元婚約者のことを思い出して、医者の面々が無事に戻って来れるかわからない場所へと行くことを憂いていた。

だが、それもすぐに切り替えたかのようにヴィルヘルミーネはにっこりと笑顔になって言葉を紡いだ。


「どうぞ、中にお入りください」
「いや、でも……」
「私も、祈りに来たんです。街の人たちも、多くの者が祈っているでしょう。今日は、平日なので空いている場所を見つけるのも、そんなに難しくはないでしょうから、お時間が許す限りお祈りなさってください」


その言葉に医者たちは首を傾げたくなった。王都では、考えられなかったのだ。


「あの」
「はい?」
「平日でも、そんなに人がいるんですか?」
「伝染病の知らせを聞いてから、祈る方は日に日に増えていますが、元々、この街の方々は熱心な方が多いですから」


王都から来た面々は、それに驚かずにはいられなかった。王都では、平日に祈っているのは、熱心な者ばかりでしかなかった。それこそ、神官くらいしか見かけたことがないのだ。週末になれば、大勢が集まるがそれでも座る場所に困るのは持ち合わせがない時くらいだ。

それこそ、伝染病のところから生きて戻って来れるかはわからない今、寄付を出し渋るのもあれかと思い、医者たちは中に入ることにした。

入るとヴィルヘルミーネが、馴染みの神官に何やら話して、その神官が医者たちのところに来た。

ヴィルヘルミーネは、ぺこりと頭を下げると中に進んだ。


「え?」


寄付をする箱の前で跪いて、そのまま中に入ったことに驚いて声を上げてしまった。


「ようこそ、初めての方々だとヴィルヘルミーネさんにお聞きしました。寄付は、お祈りのあとにお気持ちをいれてくだされば結構ですので、中にお入りください」
「そんなことしていいんですか?」
「えぇ、構いませんよ。それこそ、持ち合わせがない方々は、あぁしてボランティアをして場を清めてくださる方も多くいらっしゃいますから」


神官がいうとそちらに熱心に床を磨く身なりのよろしくない者が見えた。それに医者は目を丸くした。王都では、入ることすらできないような格好だったのだ。

それを見ていると別の神官が近づくのが見えた。それこそ、追い出されるのだと思っていたら……。


「そんなに熱心に磨くことはないと何度言ったら、わかるんですか」
「でも、俺、このくらいしかできんから」
「いつも、一生懸命にボランティアをしてくださっておられるんですから、それで十分だと何度も言っているでしょ? それにヴィルヘルミーネさんに見つかったら、あなたを見習って、一日中、床磨きを始めてしまうじゃないですか」
「ヴィルヘルミーネ様なら、祈りの場に入って行かれた。しばらくは、出て来ん」


見つからないと言っていたのに二人に声をかける者がいた。今まさに話していたヴィルヘルミーネだ。


「あら、どうされました?」
「「っ、」」


そこにヴィルヘルミーネがやって来たことに驚き、その神官も、身なりのよろしくない者も肩をビクつかせたのは、全く同じタイミングだ。悪さを見つかった子供のようだった。悪いことなどしていないはずなのだが、二人とも挙動不審になっていた。


「あ、いや、その……」
「まぁ、床磨きですか? なら、私も……」

ヴィルヘルミーネが、腕まくりを始めて慌てたのは、その二人だけではなかった。神官たちだけでなくて、それを耳にした馴染みの面々が凄く慌てていたが、ヴィルヘルミーネは気づくことなく、初めてそれを目撃する面々は何をそこまで慌てるのかと不思議にしながら、それを見守っていた。


「いや、ゴミを見つけて、拾ってたとですよ」
「そうなのですか? いつも神殿を綺麗に保とうとなさっておられて、頭が下がります。ありがとうございます」
「そ、そんな、こんくらいしか、出来んから」
「いえ、そんなことはありません。私も、見習って頑張ります!」
「ヴィルヘルミーネさんも、十分ですよ」


そんなやり取りがなされていて、耳にしていた神官たちも、祈りの場に出入りしていた者たちも、どことなくホッとしていた。


「ヴィルヘルミーネさんが、床を磨くことを始めると皆さんも始めてしまって、大変なんですよ。中には磨きすぎた床で転んだ者もいるくらいで……。あまりお祈り以外で熱心になさらないでほしいと思ってしまうのも、あれなんですが……」


ポツリと案内を頼まれた神官が呟くのを聞いて、医者たちは何となくわかると苦笑してしまった。あのヴィルヘルミーネという女性は、そういう性格なのだろう。

そんなことを思っているとヴィルヘルミーネが、こちらを見て笑顔になった。

とんでもないことをしでかすようには、医者たちには見えなかった。


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