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しおりを挟むミュリエルは、父親である公爵からの知らせで、従兄が義兄になるのをどれほど喜んだかわからない。彼のような兄がずっと欲しかったから、嬉しくて仕方がなかった。
「よかった。きっと、伯母様も喜んでおられるでしょうね」
とても優秀なパーシヴァルが、公爵家を継いでくれるのに不満などなかった。むしろ、あんなことになって両親が離婚してから、2人がどうしているかと気になって仕方がなかった。かといって手紙で近況を聞くこともできなかったから、喜ばしい限りだ。
あちらも、ミュリエルにとても感謝していることを知ることもなく、ミュリエルは義兄と伯母が幸せになることを願わずにはいられなかった。
母が亡くなってから、何かと気にかけてくれていたが、伯父のこともあってあれこれ言って来ると板挟みになると思って、滅多に会えなくなってしまったが、その代わりのようにパーシヴァルが何かと気にかけてくれていた。
同時にミュリエルは、国王の求婚を断る理由がなくなったことに気づいて、狼狽えることにもなった。もっとも、それに気づいたのは、父の手紙を読んだ次の日に国王を見るまで思い出せなかったことだが。何気に抜けていた。
「どうしよう」
国王のことは嫌いではない。ないから困るとも言える。今度は、求婚されていることへの返事に悩まされることになったミュリエルがいた。
一回りとは言わないが、それなりに年上で若くして国王となった方に見初められて逃げるなんて元々できっこなかったのだが。ミュリエルは、それでも逃げ惑った。というか、恥ずかしくなって国王を見ると途端に身体が、国王から離れようとしていた。
それを見て、嫌われているのではないとわかっている国王は、可愛いなと思っていたことも知ることもミュリエルはなかった。国王がだらしない顔をしているのを誰かに見られることもなかったが、内心でニヤニヤしているのを昔馴染みにはバレていた。
「お前、程々にしとかないと嫌われるぞ」
そんなようなことを言われていたことすら、ミュリエルは知りもしなかった。
そんな彼女は国王と婚約してから、頑張りすぎていないかと気にかけられるようになった。どうやら、ミュリエルのことをよく調べていたようだ。
前は王太子と婚約したのに張り切りすぎて、倒れたことがあった。でも、それは元婚約者も知らないことだった。
「ミュリエル。頑張りすぎることはしなくていい。君は、これまで十分すぎるほど頑張って来ている。地盤がしっかりしているから、焦って詰め込むことはない」
「ですが。王太子妃になる勉強しかしてきてないんです。いきなり、王妃になるなんて思わなくて」
「いきなりじゃない。すぐにでも結婚したいが、そうはいかない。それまで、だいぶあるんだ」
だいぶあると言う時の国王は凄い嫌な顔をしていた。その顔を見て、どのくらいなのかをあとから、侍女に聞いたらミュリエルが思っていたより長かった。国王との結婚だ。その準備も色々あるから、王太子との結婚よりも大変なのだなと思いつつ、国王に聞かずによかったと周りがホッとしていることにも、ミュリエルは気づいていなかった。
なにせ、彼女自身がホッとしていたからに他ならない。
そんなことが他にも色々あったが、若くして国王となっただけはあって知っていることが多かった。
ミュリエルの耳に余計なことが入らない様にするのも造作はないほどだが、あえて話すことにしたのにも、理由があるはずだと思わずにはいられなかった。
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