母と約束したことの意味を考えさせられる日が来ることも、妹に利用されて婚約者を奪われるほど嫌われていたことも、私はわかっていなかったようです

珠宮さくら

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ミュリエルは、持っていたオリーヴから届いた手紙を丁寧に畳んで膝上に置いてから深呼吸をした。それから、ゆっくりと婚約者を見た。


「……どなたですか?」
「貴族令嬢になったばかりの女性だそうだ」
「……」


またなのかと思わずにはいられなかった。あの王太子は世間一般のことに疎い方が、お好みなのか。それが可愛く見えるのか。オリーヴが、好みだったから何も言わなかったのかも知れない。

ミュリエルは、それなら自分は好みではないなと思ってしまったのはすぐだった。

でも、それが好みなら、トレイシーとは婚約してはいない気がした。トレイシーは自分に都合の良いようにミュリエルのことを誘導して、他をどうこうして自分をよりよく見せるのが上手い。

つまり、ミュリエルという姉を利用してこそ、上手くいっていたが、利用できる者がいないと自分で動くには色々足りないのだ。それに余裕がないはずだ。王太子妃となるための勉強と学業を両立する余裕はないとミュリエルは思っていた。いや、余裕というか。好きなことを好きなようにして生きてきたトレイシーだ。それができない生き方が難しいのではないかと思っていた。

そして何よりしつこい。自分がやっているのに上手くいかないはずがないとばかりになる傾向が強い。それについて長年、姉をしていたからよくわかると言いたいが、あの手この手で、周りがミュリエルから引き離してくれていた

そんなところが、伯父に似ていた。そして自分さえよければというところも、伯父に似ている気がする。いや、母もしつこかったところもあった。

妹を守ってと何度も誓わされた。あれは、こうなることを分かっていて、守ってほしかったのだろうか。

不貞の末に生まれたことを知らないトレイシーを守れと言われて本気で守ろうとしていたミュリエルの気持ちを考えてくれていたのかが怪しいところだ。それにトレイシーのことをどうするつもりだったのか。

今となっては、それもわからない。

伯父は、トレイシーを養子にしてそれまで築いてきたものを一気に失った。いや、元より失望されていたから築いていたものが、今回のことで全部なくなったと言えるわけではない。元よりなかったようなものだ。妻も、妻に似てしっかりしている跡継ぎも失ったが、今回のことはきっかけに過ぎない。

しっかりし過ぎて父親に似なくて良かったかのように言われていて、その息子が疎ましく思っていたのに出て行った後に愚痴愚痴と言っているようだ。

それは、よくわかる。ミュリエルは、伯父に色々言われていたから、お気に入りだったのだが、そうでなくなった後の酷さもよくわかっているつもりだ。

そんな伯父の息子にしては、優秀すぎる跡継ぎが、途方に暮れるのを見過ごせなかった者は多くいた。

その1人が、ミュリエルの父だった。ミュリエルの従兄でパーシヴァルという名前だが、父が気に入るのも無理はないほど、昔からしっかりしていた。ミュリエルとは違っていて、頼りなさすぎる彼の父よりしっかりしていた。

それこそ、ミュリエルが兄と慕っていたのもあってか。とても可愛がってくれていた。きっと父親がトレイシーばかりを可愛がっている反動もあったのだろう。

あの頃は、ミュリエルが国王からの求婚を断ってはいないが、保留にしていた。それを家の心配をしていると誰かから聞いたようだ。

もちろん誰かなんてすぐにわかる。国王の近くにいる者だ。国王が直にするはずがない。それとなくミュリエルの父の耳に入るようにして、確認をしてきた父に国王が、求婚しているのは事実だが断られそうなのは、自分の不徳のなさだと言ったことで、娘をよく知る父である公爵は即座に動いた。


「我が家の養子になってくれないか?」
「ですが」


パーシヴァルは、そんな風に言う叔父に最初、難色を示したようだ。それはそうだ。父がしでかしたこととは言え、公爵家を引っ掻き回した男の甥であり、そんな2人が腹違いの兄弟だと知ったのだ。

昔から反りが合わないからでなく、出生の秘密に問題があったせいだとわかって、パーシヴァルには複雑なものしかなかった。

そんな彼を跡継ぎにするのだ。それこそ、それで要らぬことを言う者もいるかもしれないが、公爵は……。


「ミュリエルのためなんだ」
「ミュリエルの……?」


なぜ、そこで従妹の名前が出るんだとパーシヴァルは首を傾げた。それを見て公爵は何も知らないのだとわかって、全てを話すことにした。隣国で国王に見初められたことを話したのだ。


「この家の跡継ぎは自分だと思っているから、そんなことで断らせたくないんだ」
「隣国の国王陛下は、人柄がよいことで有名ですしね」
「あぁ、若くして国を治められているだけはある」
「……」


そんなことを話して、パーシヴァルは母に相談すると即答しなかった。

元より甥っ子が、弟の子供にしては勿体ないほどにできがよくて気にかけていた。それに弟の元妻も、勿体ないくらいできた人なのを公爵は気にしてもいた。

義妹とは、公爵は弟に振り回された者同士でもあるが、公爵家の事情に巻き込まれたこともあって気にしていた。

離婚した義妹を公爵が面倒を見るとあれこれ言われるが、甥っ子のことを見たとしても蹴散らせるとばかりにして、義妹にも話してパーシヴァルを養子にした。

前公爵が何をしたかは周りには広まっていなかったが、珍しい色合いを持っていたのが生まれたのだ。

昔から色々言われていたが、それについてただのやっかみだと思っていたようで、それがやっかみだけでなかったことを思い知ったのは、公爵の弟だった。

そもそも、珍しい色合いを持って生まれたのを自慢していても、ジンクスうんねんのこともパーシヴァルの父親は特に気にしていなかった。

それをただのジンクスだとしていなかったら、違っていたかも知れない。それは、トレイシーも同じだった。

珍しい色合いを持って生まれているのに幸せになれないはずがないと思っていたのだ。そんなことを言うのも、やっかみからだと思っていて、未だに珍しい色合いでこうなったとは親子で思っていなかった。


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