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しおりを挟むオリーヴが戻るとニコラは、王子との婚約をとっくに破棄していた。やっぱり、あちらで聞いた通りだったようだ。
そこまでは想定内だったのだが……。
「オリーヴ様。王子とお会いになったのでは?」
「え?」
久々に学園に行くとそんなことを言われて、オリーヴは困惑した。
ニコラは、色々やらかしてしまったのが、みんなにバレてしまったらしく、家の恥をさらしたとばかりに修道院に入ったあとだった。
「あの、破棄なさってから、すぐに留学なさったので、てっきり本命はオリーヴ様だったのかと思っていたのですが……」
それを聞いて、目をパチクリしてしまった。令嬢たちは、みんな同じように思っていたようだ。
「いえ、留学先ではお会いしませんでした」
「あら、じゃあ、オリーヴ様ではなかったのね」
「王子が、誰とはおっしゃらなかったから、てっきりオリーヴ様だと思っていたんです。それに留学期間を延ばされた時いたので」
「タイミング的にも、王子が行かれた頃合いとあうので、そうだとばかり思っていたのです。それに婚約なさったのでしょう?」
「えぇ、隣国のヴァンス公爵子息と婚約しました」
「まぁ! おめでとうございます!」
どうやら、オリーヴは王子の本命だと思われていたようだ。それが、ずっと噂されていたのかと思うと何とも居心地の悪いものを感じずにはいられなかったが、婚約者がヴァンス公爵の子息だと聞いて祝福されながら、色々と聞かれてそれはそれで大変だった。
あまり詳しいことは言えなかった。ここから留学を取りやめた子息だとわかると大変だと思ったからだ。イーデンの名誉のためにも、上手く誤魔化しておいた。
学園で、そんな風になったことで心配されてしまったようだ。
「姉さん。大丈夫?」
「凄く疲れたわ」
「みんな、噂好きだから。でも、好き勝手なこと言ってるだけで、本命がいたって話も王子がしたかはわからないよ」
「そうなの?」
「あんな風に騒がれたら、留学したくもなるさ」
「……そうね」
弟は、すっかり疲れた顔をしていた。どうやら、姉のことで色々と聞かれていたようだ。なのにオリーヴに心配かけまいと手紙では、その話題をしないようにしたようだ。
ニコラのことを幼なじみで大事な友達だと思っていたのは、オリーヴだけだったようだ。ニコラはオリーヴを上手く利用して、王子と婚約して邪魔な女は留学した。それに浮かれていたが、王子に本命がいるのは、誤算でしかなかったようだ。
その本命を聞いた彼女は、王子と本命がくっつくのを最後まで邪魔した。わざと留学した国の話をしたのだ。すると信用なんてならないと王子は別の国に行ったのだ。
それを知ってニコラは、おかしそうに笑った。
「あはは、馬鹿ばっかり。あの女が幸せになるなんて許せないから、邪魔できてよかったわ」
修道院に行くことになったニコラは、本命同士がくっつかずに王子とオリーヴは不幸せになったと思っていた。
そう何を隠そう、王子の本命はオリーヴだったのだ。
だが、ニコラがしてくれたことに翻弄された王子と出会わなかったことで、オリーヴは運命の人と呼べるあいてとめぐり逢い、婚約することになったのだ。もはや皮肉としか言えない。
王子は、オリーヴが近づきたくない国の方に行っていた。彼はオリーヴのことを何も知らなかったようだ。本命と言っても、一目惚れした相手のことなんてよく知らずともよかったようだ。
それこそ、オリーヴが吹っ切れる前の見た目だけに惚れただけでしかなかったようだ。
そんな王子は、オリーヴがそこに留学しているものと思っていた。いないはずがないと思って躍起になっていて、留学期間を延長して戻って来た時にはオリーヴは飛び級をして1年早く卒業していた。そして、イーデンのところに嫁いで行った後だった。
だが、今更、オリーヴが本命だとは言えなくなったのは、オリーヴの弟が王子に釘をさしたからだった。
「え? オリーヴ嬢が、結婚……?」
「そうです。隣国の王弟殿下のご子息が、僕の義兄になりました」
「隣国……?」
やはり、あそこにいたのか?という顔を王子はしたが、それをオリーヴの弟はにこやかに否定した。
「王子が行かれた方ではないですよ」
「っ、」
「あれ? 本命がいるところに王子は行かれたのですよね?」
「あ、いや、その」
「まさか、いもしないのに行ったわけありませんよね? それか、本命がいるところを間違えたなんて、ありえませんよね? それで、留学の延長までしたなんて、笑うに笑えませんものね」
「そ、そうだな。だが、本命なんて、そもそも私にはいない。それは、ただの誤解だ」
「そうでしたか。それは失礼しました」
王子は、まさかニコラが本当のことを言っていたとは思いもしなかったようだ。
だが、オリーヴの弟だけが、何があったかの全てを知っていた。そう、ニコラがしたことも、王子とくっつけさせるためにオリーヴに協力させたことも何もかもだ。
でも、それを知っていながら、ニコラが噂していることだと姉に話さなかったのは、この王子を義兄と呼びたくなかったからだ。
それなら、イーデンの方がいい。姉を幸せにしてくれるのは、あちらだ。ちょっと抜けているというか。運がないところがあるが。
もちろん、オリーヴの弟は姉を悲しませられないと自身も幸せになる道を突き進んだ。
そんなことになっているとも知らず、オリーヴはイーデンと結婚してから弟が素敵な令嬢と婚約したことを知り、大喜びした。
義妹とは血の繋がりがないはずなのにオリーヴたちは、姉妹のようになり、2人の夫がこっそり羨むほどの仲良しになるのに時間はかからなかった。
こうして、どちらの家族も笑顔溢れる幸せいっぱいの家庭を築いて、人生を謳歌することになり、オリーヴたちの父や父方の祖父母も嬉しそうにしていた。
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