好きな人が身内や幼なじみと被って失恋が続いて、私は刷り込まれた夢を追いかけていたことを知りましたが、そのおかげで幸せです

珠宮さくら

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「ねぇね。だいじょーぶ?」
「うん」


そんな弟は、オリーヴが具合を悪くしていると聞くと、花を摘んで部屋に訪れるようになった。弟の側にいる者に見舞いの仕方を教わったようだ。遊んでほしそうにしながらも、名残惜しそうに長居せずに帰って行った。4歳児にできるのだ。王太子や長女にも見習ってほしかった。

次女がオリーヴのところに訪れることはなかったが、弟と忙しいだろうに父も、よくやって来ていた。

それに父方の祖父母も、頻繁には来なかったが、程よい距離でオリーヴの負担にならないようにしてくれていた。

そんな中で時折、長女は王太子と見舞いに来ようとしているのを追い返してもらっていた。それが気に入らないらしく、長女だけで見舞いに来ることはなかった。

そのため、花を見た父は……。


「この花は?」
「おとうとが、くれた」
「そうか。花屋ができそうだな」
「だめ」
「なぜだ?」
「わたしが、もらったの。うりものにはしない」
「そうか。そうだな。今のは、私が悪かった」
「……でも、おにわにおはななくなってない?」
「ん?」
「にわしにおとうとが、おこられるかも」
「庭師には、よく言っておく。お前の部屋に飾られているんだから、庭師も怒りはしないさ」
「でも、そだてているのは、にわしでしょ? もってきてくれるのはうれしいけど……」


オリーヴが何を言いたいのかが、父にはわかった。そんな娘の頭を撫でた。


「お前は優しいな」
「やさしいのは、おとうとだよ。かぞくなら、てぶらでもいいのに。かぞくじゃないひとたちは、なにももってきたことないのに」


その言い方に眉を顰めずにはいられなかった。伯爵夫人たちが、頻繁に来ていたとあとから聞いてはいたが、そこまで常識知らずとは思わなかった。


「王太子も、か?」
「?」
「見舞いに来ているのだろう?」
「あのひとは、わたしがほんとうにぐあいをわるくしているかをみたいだけだよ。だから、あってない」
「……なぜ、そう思う?」
「ぐあいがわるいふりをするひとがいるからじゃない?」
「……」


父がその言葉に思い浮かんだのは、ブラコン気味の王女のことだった。婚約する前は、凄く騒いでいたらしいが、婚約してから大人しくなったようで、エディスのことを認めたと思われていた。

何をしても、ブラコンな王女は王太子にとっての一番でなければ気が済まないところがあった。そのため、小さい頃から、あの手この手で王太子が自分のところに来るようにしていたらしいが、その大半が具合が悪くなったから、見舞いに来て顔を見たがっているというものだったことをダルト公爵は耳にしたのを思い出していた。

そのくせがついてしまっているにしても、頻繁に具合がよくなったかを確認しようとするのも、もしかするとシスコンだと思っているのかも知れないが、この家の姉妹仲はそこまでよくない。

逆に仲違いさせるためにわざと具合が悪いふりをしていると思っているとしたら、王太子は本当に見る目がない。

だが、そこから別の話をすることになった。オリーヴと話すのは、いい気分転換にもなっていたようだ。

ダルト公爵は、上の2人の娘たちよりも、このオリーヴと末っ子のことで和むことの方が多かった。仕事が忙しくとも顔を見せによく現れた。

そして、父もオリーヴのところに長居をあまりしないように気を配っていた。

だから、オリーヴも父と弟と父方の祖父母の見舞いを断ることはなかった。

それに彼らの見舞いで、その後に具合を悪くすることはなかった。


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