上 下
4 / 18

しおりを挟む

ダルト公爵夫人は、両親がダルト公爵家に来るのも駄目だとなって憤慨した。それこそ、男の子を産んだのだから、それなりのことは言ってもまかり通るとばかりにしたのだ。

だが、その話し方に問題があるとは彼女は気づきもしなかった。ダルト公爵も彼の両親も、その言葉を聞いて不愉快そうにしていたが、それにすら気づいてはいなかった。

もはや、ダルト公爵夫人の当たり前は偏りきった偏見に塗れていたが、その中で生きてきた彼女には、それがおかしいことがわからなかった。


「ダルト公爵家の夫人が、男しか跡を継げないと思っていたとはな」
「っ、そういうものなのでしょう?」
「お前は、あの親にそう刷り込まれただけだ」


夫にそう言われ、義両親を見て、初めて動揺し始めた。


「そんな、じゃあ、次女か、三女に継がせるつもりだと? そんな、なら、私は何のために男の子を必死に産んだのよ! 私が、どれだけ苦労したことか」


そのために娘たちを蔑ろにしてきた罪悪感なんて、そこにはなかった。全ては息子を産めば、嫁の務めは終わりだとばかりにしていた。


「お前の夫が、男を産めと言ったことがあったか?」
「それは……」
「私たちは男の子を産めと言ったことはないはずよ。それなのに子供たちをこんなに区別していたとは思わなかったわ」


義両親も、呆れきった目をしていた。

それでも母親は必要だと必死に縋っていたが、子供たちは誰も母親を必要とはしていなかった。

それでも、問題があるとしたら、せっかく王太子と婚約したばかりで、オリーヴの具合もよくなっていないのだ。タイミング的に離縁するにも、今はまずいとなり、あとにしようとなった。

ダルト公爵夫人とその両親は、あとにするだけで離縁する気が変わらないとは思っていなかったようだが、それが覆ることはなかった。

何だかんだと言っても、世間体もあるから離縁まではいかないと思っていたようだ。その辺もそっくりな親子だった。







母の愛情を独占していた弟は、オリーヴだけが姉のように思っていて、長女と次女には見向きもしなかった。

生まれた頃は、構い倒されていたが、それも犬猫を可愛がるように飽きたら、会いに行かなくなっていたようで、一方的な可愛がり方で玩具のように扱われたことを弟は察していたようだ。

それに比べて、オリーヴはただ困惑していた。どう扱ったらいいのかがよくわからなかったのだ。そこに玩具のように扱う気持ちはなかった。

ただ、姉だと認識されていることへの困惑しかなかった。


「ねぇね」
「……どうしたの?」


1つしか違わない弟は、姉のあとを必死に追いかけていた。オリーヴは、それにすっかり絆されていた。

最初は、弟と言われてもよくわからなかった。それが、ねぇね、ねぇねと呼ばれるうちに姉の自覚が芽生えたようだ。一緒にいようとしてついて来ようとするが、1つ違えばよたよたするのは無理もない。

見かねて手を貸すようになり、すっかり仲良くなるまで、そんなにかからなかった。

それに叔母と従姉にも、反応はなかった。叔母は、母が息子に嫌われていると知って嬉々としてやって来て、自分の方が好かれると思っていたようだ。その辺の自分は別格という考え方は母の家系の特徴のようになっていたが、嫌うどころか。まるでいないかのように存在を無視したのが、気に入らなかったようだ。それは、従姉も同じだった。

それまで、男の子が生まれたことで、何かあっては大変だからとダルト公爵夫人はあまり、妹と姪に息子を会わせたがらなかった。だが、そんなことを必死に頑張っていた彼女はダルト公爵の反感を買って別宅にいるため、女主人公のいない間に好き勝手にダルト公爵家に現れるようになっていた。

ついでのように姪が具合を悪くしている見舞いだと言えば、無下にもされないため、頻度は減るどころか。多くなるばかりだった。


「何この子、気持ち悪い」
「っ、!?」


オリーヴは、従姉の言葉に腹を立ててポカポカと叩いた。それは無意識なものだった。弟を侮辱したことが許せなかったのだ。

それにそんな威力はなかったが、ウザかったのか簡単に突き飛ばされてしまった。具合が悪い原因もわかっていないのもあり、それはあっさりと転んでしまった。


「ねぇね!」
「何をしているんだ!!」
「っ、その子が叩いて来たのよ」
「オリーヴ。なぜ、叩いた?」
「おとうとをきもちわるいって、いった」


ダルト公爵がやって来て、気持ち悪いと言う言葉に眉を顰めた。

叔母は慌てて……。


「子供のすることですから」
「子供? 確かにオリーヴは子供だが、そっちは子供だからと許される年齢ではないのでは? ダルト公爵家の子息を気持ち悪いなど、無礼がすぎると思うが?」
「それは……」
「オリーヴ。人を叩くのは、よくない。わかるな?」
「はい。おとうさま。ごめんなさい」


オリーヴは、泣きそうになりながらも謝った。

謝られた方は、当然のようにしているだけだった。


「叩いたことを謝ったというのにそちらからの謝罪はないのか? そもそも、娘も、娘なら母親が謝る気もないのは、あなたもそう思っているということだな? もう二度と我が家には来ないでくれ。今日のことは、ノリッジ伯爵にも知らせておく」
「ま、待ってください! 謝ります。ですから、夫には……」


だが、ダルト公爵がそれを聞くことはなかった。叔母は、長男を産んだままで世話などしていなかったのだ。あの両親に育てられたことで、娘たちはそれが当たり前になりすぎていた。

ノリッジ伯爵夫人が、ただ姉と違っていたのは、自分にそっくりな娘を可愛がっていたところだ。

ダルト公爵家に嫁いだ姉を妬ましく思っていて、娘と何食わぬ顔をしてやって来ていたが、そんなに頻繁にダルト公爵家にお邪魔していることをノリッジ伯爵である夫には全く話していなかった。

時折、姪が心配だからと見舞いに行っているとは話していたが、見舞いなんかする気はなかった。

このことがきっかけとなって叔母は、夫にも義両親にも、実父母にも色々と言われることになったようだが、オリーヴと弟はダルト公爵家に頻繁にやって来ていたのがなくなって喜んでいた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~

バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。 幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。 「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」 その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。 そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。 これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。 全14話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」 侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。 「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」 そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。

(完結)モブ令嬢の婚約破棄

あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう? 攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。 お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます! 緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。 完結してます。適当に投稿していきます。

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

【完結】え? いえ殿下、それは私ではないのですが。本当ですよ…?

にがりの少なかった豆腐
恋愛
毎年、年末の王城のホールで行われる夜会 この場は、出会いや一部の貴族の婚約を発表する場として使われている夜会で、今年も去年と同じように何事もなく終えられると思ったのですけれど、今年はどうやら違うようです ふんわり設定です。 ※この作品は過去に公開していた作品を加筆・修正した物です。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?

瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」 婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。 部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。 フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。 ざまぁなしのハッピーエンド! ※8/6 16:10で完結しました。 ※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。 ※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。

婚約破棄ですか……。……あの、契約書類は読みましたか?

冬吹せいら
恋愛
 伯爵家の令息――ローイ・ランドルフは、侯爵家の令嬢――アリア・テスタロトと婚約を結んだ。  しかし、この婚約の本当の目的は、伯爵家による侯爵家の乗っ取りである。  侯爵家の領地に、ズカズカと進行し、我がもの顔で建物の建設を始める伯爵家。  ある程度領地を蝕んだところで、ローイはアリアとの婚約を破棄しようとした。 「おかしいと思いませんか? 自らの領地を荒されているのに、何も言わないなんて――」  アリアが、ローイに対して、不気味に語り掛ける。  侯爵家は、最初から気が付いていたのだ。 「契約書類は、ちゃんと読みましたか?」  伯爵家の没落が、今、始まろうとしている――。

処理中です...