好きな人が身内や幼なじみと被って失恋が続いて、私は刷り込まれた夢を追いかけていたことを知りましたが、そのおかげで幸せです

珠宮さくら

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気づいたら、3日が過ぎていた。目が覚めたオリーヴは、死んだように眠っていたことを聞かされた。その間、悪夢のようなものを見ていた気がする。失恋したショックで、起きていたくなくなってしまったのかもしれない。

王太子は、目の前で倒れたオリーヴのことを心配してくれていたが、失恋した相手というのを抜きにして、あれこれ話しかけられても、愛想よくなんてできなかった。王太子の放つ香りが気持ち悪すぎたのだ。

失恋したことで、王太子の何もかもが嫌いになったというのもあるのかもしれないが、好きではないどころか。気分を害する香りを放つ人に愛想よくなんてできるわけがない。


その意味がわからないエディスは、三女のオリーヴの王太子に対する仕草の全てが気に入らないようにしていた。


「オリーヴ。殿下に失礼よ」
「……」


エディスは、オリーヴの態度にぷんすか怒っていた。せっかくの婚約が、オリーヴのせいで台無しになったら困るとばかりに病み上がりのまだ5歳になったばかりの妹に怒っていた。


「何を考えているのよ。これだけ、気にかけてもらって何が不満なのよ!」
「……」


これまで、エディスと大した話もしたことがなかったオリーヴには、姉というものがこんな生き物なのかと思う程度で、仲良くなんてわざわざならずともいいと思えてしまった。

別に気にしてくれと頼んでもいないのにそんなことを言われてオリーヴは益々、ムスッとした。

王太子は、まぁまぁと婚約者のエディスを宥めて、見舞いは済んだとばかりに帰って行った。

何が嫌かと言えば、あの匂いがしたのが嫌でならなかった。鼻をつまみたくなったが、流石に人前でやることではないかと我慢していた。それだけでも、かなり疲れてしまっていた。これ以上、姉の相手などしていたくなかった。

それこそ、見舞いと言いながら、この時の王太子は本当に具合が悪いのかを見ているような気がして、オリーヴは物凄く嫌な気分になっていた。

この人を好きだとなぜ思えたのだろうかとすら思うと王太子の纏う香りすら、気分が悪くなって仕方がなかった。5歳児にそんなことを思われたのだ。相当だと思う。

エディスは王太子が帰ってもずっと怒っていた。オリーヴの具合の悪さにも、気づいていなかった。ただひたすら、自分の気が済むまで言い続け、オリーヴから謝罪の言葉が欲しかったようだ。

だが、それを止めたのは、父だった。


「エディス。いい加減にしないか。それにそもそもなぜ、王太子をここに連れて来たりしたんだ?」
「え? だって、目の前で倒れたら、誰でも気にするでしょ?」


それは、エディスが思ったことではない。王太子がそう言ったから。そういうものだと思って言っただけにすぎなかった。彼女自身、オリーヴのことを心配している気持ちなんて欠片もなかった。

父であるダルト公爵は帰宅してエディスがオリーヴに怒っているのを聞きつけて、仕事から戻って来て長女にそんなことを聞いたら、エディスはさも当然のように答えて、それに呆れてしまった。

そこに三女である妹への気遣いなんて欠片もないことに父は眉をしかめずにはいられなかった。5歳の妹に一回りも上の姉が、気遣うことすらできなくて、王太子の婚約者になったことに頭痛すら覚えてしまった。


「オリーヴは、まだ安静が必要なのは伝えたはずだ。遠慮してもらうのは、お前の役目ではないのか?」
「そんな、どうしてもと言われたのよ。王太子に頼まれたら、会わせなきゃいけないでしょ? 婚約したばかりなのに嫌われたくないわ」
「お前は、嫌われたくないからとこの先ずっと王太子に合わせていくのか?」
「? 婚約したのだもの。そういうものでしょ?」
「エディス。お前は……」


エディスは、父にそんなことを言っている間に再び、オリーヴは倒れることになった。

一番最初に母もいたところで倒れたせいか。母も、びっくりしたようだ。二度目の時も、母は倒れるところを見ることになった。丁度、母は部屋から出て来たところだったらしいが、オリーヴは知らない。

これまで三女なんて、この家にいないかのようにしていたが、急に母性が溢れたようだ。……そんなものがあったなら、産みっぱなしに何故したのかと思うところだが、死にかけている娘はほっとけなかったようだ。

オリーヴが眠っている間、母は側にいたようだが、オリーヴが目覚めて長女や王太子に捕まっている少し前まで付きっきりで看病していて、母の方がダウンしてしまっていたようだ。そんなことに慣れていなかったせいで、側であれこれ命令するだけで疲れてしまったようだ。

育児も長女の時から、殆どしてはいない。ただ、息子が生まれてから口出しするようになったが、口だけで自らやるということはなかった。

オリーヴが倒れた時も、ヒステリックに喚き散らすだけで乳母やメイドは、邪魔くさく思うだけだった。そはにいてもオリーヴの手すら握ろうとしないし、汗を拭いてやることもなければ、名を呼ぶこともないのだ。

それなのに体調を崩して、部屋で休むと言い出したのだ。


「あれって、ただの寝不足では?」
「そうでしょうね。寝ないで誰かの世話というか。付き添っていたこともない方だから」


乳母とメイドは、そんなことを思って呆れていたが、その間、喚き散らされることがないので神経をすり減らすことはなかった。

それなのにエディスが王太子を連れて来て見舞いをしたいと言われて乳母やメイドたちは、眉を顰めたくなったが、そんなこともできず、まだ起きたばかりで本調子ではないとエディスに言っても、あの調子で全くわかってはくれなかった。

だから、また倒れることになったのも無理はないと思っていた。

そこでオリーヴが目覚めたと聞いた母は、部屋から出て来てまた倒れたのを見て、再び取り乱した。その取り乱しっぷりは凄かったようだ。ようだというのも、オリーヴはそれを一切見ていないからだ。

もっとも、当たり散らしたのは、オリーヴの乳母とメイドたちに対してだ。徹夜が続いていたが、寝て起きただけで体調が戻った彼女は、絶好調に戻っていた。


「お前たちが見ていながら、何をしているのよ!!」


乳母たちは、放ったらかしにしていたわけではなかったが、医者ですら原因がわからない状況で当たり散らす夫人にげんなりしていた。この人にだけは言われたくないとすら思っていたが、それを言葉にはしなかった。ダルト公爵夫人の前では。

そんな日が続くようになり、そのせいで周りからはダルト公爵家の三女は、病弱だとか。虚弱体質だと好き放題に言われることになってしまった。

更に母は、オリーヴが寝ている時についていたが、面倒なんてみてはくれていなかった。倒れた理由はわからないままだった。それに寝ていたとはいえ、世話などと言えるようなことを母にされたことがなかった。


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