好きな人が身内や幼なじみと被って失恋が続いて、私は刷り込まれた夢を追いかけていたことを知りましたが、そのおかげで幸せです

珠宮さくら

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アンドラル国の公爵家の三女として生まれたオリーヴ・ダルト。一回り離れたダルト公爵家の長女のエディスの婚約者となった王太子が、オリーヴの初恋の人だった。あれは、オリーヴが5歳の頃の話だ。

だが、その前にオリーヴについてだ。ダルト公爵家では女の子が2人続き、3人目となるオリーヴが生まれる前、ダルト公爵家では男の子が熱望されていたかと言うと公爵も、公爵の両親も、そこまで男の子を強く望んではいなかった。

ダルト公爵も妻にそんなことを言ったこともなければ、彼の両親も1人目から全く変わっていなかった。


「無事に産まれて来てくれたら、それでいいわ」
「そうだな。それが何よりだ」
「っ、」


義両親にそう言われてばかりいたダルト公爵夫人は、妊娠するたび気を重くさせていた。3度目の正直になった今、これまで以上にプレッシャーが大きかった。

男の子を産め産めとせっついていたのは、ダルト公爵夫人の実家の両親だ。


「今度こそ、跡継ぎを産むんだぞ」
「そうよ。そうでなければ、ダルト公爵様にも、あちらのご両親にも申し訳ないわ」
「……わかっています」


ダルト公爵夫人となった娘にプレッシャーをかけていたのは、実父母だけだったが、彼女は夫や義両親も行って来ないだけで同じだとずっと思っていた。

でも、そもそもダルト公爵も、その実父母は女の子が跡継ぎになっても優秀なら構わないという考えずを持っていた。

なのに家を継ぐのは男のみだと言わんばかりにしていたのは、彼女の姉妹も同じ考えを刷り込まれて育ったからに他ならなかった。ダルト公爵の妹は男の子を最初に産んでいるため、2人目以降は余裕があった。


「流石に次は、男を産まなきゃね」
「っ、」


そんな風に言って来るのを聞きながら、ダルト公爵夫人は今度こそ男の子だと思ってふくらんだお腹を撫でた。これまで2人の娘たちとは違っていたから、そう思っていた。


「大丈夫。この子は、絶対に男の子のはずよ。そうよ。今度こそ、絶対に男の子よ」


でも、生まれたのはオリーヴだった。母や母方の祖父母にまた女の子だったとばかり落胆した。そして、母にも母方の祖父母にもぞんざいに扱われることになった。特に母だけでなく、そちらの祖父母は、娘に跡継ぎを産ませるのに躍起になっていて、生まれたのが女の子なことがわかるとまるでいないかのように扱った。

その代わりのように年の離れた姉2人が妹を構うかと思いきやそんなことはなかった。姉たちは自分たちのことでてんてこまいしていて、妹に構う余裕はなかった。

次女は、オリーヴのようにされずとも、長女よりは雑に扱われていたため、そんなものと思っていたようだが、長女はそんな2人の妹たちより、マシだったことすら知らずにいた。

そこが次女は、長女を嫌う理由となっていたようだが、オリーヴは構われることがなかったためよくわからなかった。構われるようになってから、嫌う理由が何となくわかったが、そうなるまでに姉というものが、そもそもオリーヴにはよくわからなかった。

オリーヴは乳母とメイドたちによって母という存在が次女以上にいまいちわからないまま、姉たちとも大して関わらずに成長することになった。

オリーヴのすぐ下にようやく男の子が生まれたことで、姉たちは母と同じようになって末っ子を可愛がるようになった。オリーヴの側に常にいたのは、乳母とメイドたちとそして、時々現れる叔母だった。

叔母のことを母だとはオリーヴは思うことはなかった。彼女なりに可愛がってくれていたようだが、叔母はオリーヴの母や2人の姉のことを悪くばかり言っていて、あとは夫の愚痴やらを幼い姪に吐き散らかして、すっきりして帰って行くだけの人だった。どうせ、子供に言ってもわからないと思っていたのだろう。それに乳母とメイドたちは、ダルト公爵に言えないと思って好き勝手なことをオリーヴにしていた。

オリーヴは、そんな叔母の言葉をあまり良く聞いてはいなかった。それは乳母たちが、無視していいと言っていたからだ。


「あの方のことは無視していていいですからね」
「……」


オリーヴは、乳母たちの言葉によくわからなくとも頷いていた。適当に聞いているふりをすれば、よかった。

まさか、幼い姪っ子にすら無視されて適当に扱われているとは思っていなかっただろう。叔母は家庭でも、そんなような扱いを受けているようだったが、そんなことされているからといって、オリーヴにしていい理由にはならない。ただ、オリーヴよりも自分はそこまで惨めではないと思いたかったのかもしれない。

そんなオリーヴに対して乳母は、誰よりも可哀想がっていた。


「お可哀想なオリーヴ様。まだ、こんなに小さいというのに」
「……」


現実は、酷いとしか言いようがないとばかりに嘆いていた。一番オリーヴに影響力を持つ者が、そんなことをよく言っていた。

そのため、おとぎ話をよく聞かせてくれるようになった。幸せな世界を夢見てほしかったようだ。夢見たら、そうなるかのように。オリーヴが、そのおとぎ話の世界に夢を馳せたのは、乳母がオリーヴのところにも必ず王子様が現れると言っていたからだ。


「おうじさま?」
「そうですよ。オリーヴ様のところにも、必ず来ますよ」


それをすっかり信じ込んでいたオリーヴは、まさにおとぎ話から出て来た王子が現れたと5歳の時に思ったのだ。

ついにオリーヴのところにも来てくれた。顔が小さくて手足が長くて、格好いい服を着こなしていた。でも、香りがオリーヴは気になった。良い香りのようで、オリーヴには好きな匂いではなかった。

辺りをきょろきょろしても、誰も何も言わないのに自分だけなのだとすぐに思って我慢した。それ以外は完璧なのだ。

ダルト公爵家に現れた時、何も知らないオリーヴは夢を見すぎていた。そんな王太子を見て、自分を迎えに来た白馬の王子だと思ってしまったのだ。おめでたい頭をしていたものだ。

それがエディスとなった王太子だとわかるまで、すぐだった。王太子は、オリーヴのことなど見向きもせず、エディスのところに向かったのだ。

そして、2人が婚約したことを知ることになり、婚約が5歳児でも恋仲だとわかった。オリーヴがあまりのことにショックを受けたのは、直後だった。

そう、オリーヴの初恋は5分もかからず終了して、あまりにも早い恋の終わりに頭と気持ちが追いつかずに気を失ってしまった。


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