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しおりを挟むジェンシーナが最悪な子息に会ってから、すぐに留学生たちが戻って来た。何だかんだあっても、月日は過ぎるものだ。
その中の令嬢は、学園に来るなり……。
「最悪だったわ」
そう、ジェンシーナに言った。ジェンシーナは、何があったかを両親から聞いていたが、本人に会えてホッともしていた。
「せっかく、婚約者を見たくて留学してたのにね」
「挨拶しても普通だし、その後もスルーするんだもの」
「なら、勉強三昧だったの?」
するとげんなりしていたのが、嘘のように元気になった。
凄い美人なため、この国ではジェンシーナ以外と中々仲良くできずにいた。美人すぎる彼女の横にいたら、比較されると思ってのことのようだが、もはや並ばなくとも比較されることになれているジェンシーナは慣れっこだった。
ジェンシーナのような悩みもあれば美人すぎれば、それはそれで悩みがあるようだ。世の中わからないものだ。
「まさか、令嬢たちとお友達になったわ!」
「流石」
「それに王女とも、仲良くなれたのよ。こっちに留学したいらしくて、凄く色々聞かれたわ」
「あちらの王女って、年下よね?」
「えぇ、でも、飛び級しているのよ」
ジェンシーナは、そんな愚痴を聞いていた。彼女は、ジェンシーナの従姉だ。世間がこんなに狭いと誰が思うだろうか。
留学生たちが、それなりにいたのにあの話に出てきた婚約者うんねんの話の人が従姉だったのだ。
そう、母方の従姉で若い頃のジェンシーナの母にそっくりだったりする。あまりにも、美人過ぎて実の母親が嫉妬してしまい、幼い頃から大変な目にあっていた。それを見かねた祖父母が、留学した国ではないところに住んでいて、そちらで暮らしていたのだが、ジェンシーナが教師によって酷い目にあわされたと聞きつけて、実家からこちらの学園にやって来たのだ。
その頃には、もはや何をしても実母が娘に太刀打ちできない美貌を有していたが、最後の抵抗のように婚約者を勝手に決めてしまったのだ。
案の定というべきか。従姉のために選んだだけはあったようだ。
「まぁ、あんなのと婚約破棄できてよかったわ。慰謝料もかなり貰えたし、あの人も今回のことがあって、離縁されることになったし。それより、ジェンシーナ。婚約、おめでとう!」
「あはは、ありがとう……?」
何やら、聞き捨てならない言葉もまじっていたため、聞き返そうとすると……。
「え、あの……」
「それと元婚約者の弟に酷いこと言われたんでしょ? ごめんね」
「え? いや、従姉様が、謝ることじゃないよ」
「その時は、まだ婚約してたから、養子に行ったとはいえ、あれの弟なのに変わりはないし。どうせ、謝罪してないんでしょ?」
「あー、まぁ、ないようなものかな」
あれと言うのに苦笑するしかなかった。謝罪も、王太子とフレイジェルールのところには、ヴェブレン男爵夫妻は揃って謝罪しに行ったようだが、他のところは手紙と詫びの品のみだった。
何やら従姉は、親が離縁した話をしたくないようなので、スルーすることにした。
それこそ、公爵家の令嬢だった時にしたことをヴェブレン男爵夫人になってもしたようだ。
「あら、あの人、自分の立場がわかってないみたいね」
「……」
ジェンシーナの母は、それを突き返した。他の家も同じことをしたようだ。若い頃にそれで済まされたのは、後ろ盾があったからだというのに。今も、これで十分と思っているのだから呆れるとばかりにみんな突き返していた。
今はヴェブレン男爵夫人でしかない。養子にしたのが、やらかしただけで大目に見てくれとばかりの手紙にもカチンときた者は多かったようだ。ジェンシーナの母は目を通して、その手紙を真っ二つに裂いてから、詫びの品と一緒に突き返していた。よほど頭にきたようだ。
多くの貴族を更に怒らせたヴェブレン男爵家は、逆ギレをした。特に夫人の方が、謝罪しているのにそれを無下にしたとばかりにしたのだ。
「こちらは、謝罪したのに蒸し返すなんて」
「全くだ。お前が、わざわざ謝罪したのに」
「えぇ、手紙と詫びの品を送りました」
「……は? エラートを連れて謝罪に行ったのではないのか?」
「え? 何で私が? それは、あなたとエラートがやることでしょ?」
どうやら、どちらもエラートを連れて謝罪したと思っていたが、それすらせずに追い返していたことがわかったのは、その時だった。
なのに逆ギレして、周りに当たり散らしていたのだ。ヴェブレン男爵は、それに顔色を悪くさせたが、夫人の方は全く平然としたままだった。
それによって、自分たちがしたことで更に自分の首を絞めることになったヴェブレン男爵家は、どこからも養子を迎えられず、口論の絶えないまま、ヴェブレン男爵が急死してからは、ヴェブレン男爵夫人として家を守ろうとしていたようだが、その頃にはどこからも招待されることなく、話しかけられることもなくなっていた。
みんな、存在しないかのようにして関わることはなかった。誰かを雇うお金もなくなり、自分のことは自分でしなければならなくなっても、他人には偉そうにしたままだったせいも大きかった。
そんなヴェブレン男爵夫人を見ても……。
「何、あのみすぼらしいの」
「さぁ?」
もはや“あの”ヴェブレン男爵夫人だと気づく者すらいなくなっていた。どこか、場違いな老女がいると思っていたが、そこまでの年齢にはなっていなかった。
まぁ、ヴェブレン男爵家のことは自業自得でしかない。そのため、誰からも気にかけてもらえず、心配する者が現れることはなかった。
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