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しおりを挟むようやく、母のことで落ち着いたと思っていたら、落ち着くのは難しかったようだ。
「え?」
「父上。理由は?」
「あー、隣国から来ていた王女に一目惚れされて、そちらと婚約したいからだそうだ」
「……」
フランソワーズは突然、婚約を解消したいと言われていると父に言われて絶句していた。すると理由を兄がすかさず聞いてくれたが、そんなことあるのかと思ってしまった。まだ、会ったことがないが、兄は認めているような子息だったはずなのに。
ちらっと兄のファビアンを見ると鬼の形相をしていたので、フランソワーズは見なかったことにして、父の方を見た。兄のことは見なかったことにした。
「フランソワーズ」
「婚約破棄で構いません。……そんな子息と結婚したくありません」
「そうか。わかった」
「お兄様。何もしなくていいです」
「……」
父も、息子が何かしそうに見えたのか。フランソワーズの言葉だけでは心許ないと思っていたのか。必死に釘をさしていた。そんな父も、目の奥が怒っていたのをフランソワーズはよく見ていなかった。
それだけ、ショックを受けていたようだ。何よりエディットと義理の姉妹になるのがなくなったのが、残念でならなかった。
次の日。学園に行くと……。
「戻って兄を絞めるわ」
エディットは、兄のしたことを彼女が悪いわけでもないのに謝罪してくれ、真顔でそんなことを言った。鬼の形相をした兄を見ているフランソワーズは、兄よりはそこまで怖くはないかと思いつつ、息の根を止めそうな勢いなことに気づいていなかった。
「エディット。いいよ」
「でも」
「あー、その、ごめん。あなたのお兄さんだけど、理由を聞いたら関わりたくないって思っちゃったんだよね」
「そう、よね」
エディットが残念がったのは、どうやらフランソワーズと義理の姉妹になることだったようだ。
だが、理由が理由なだけにそんな兄と婚約しても、フランソワーズがこの先苦労し続けるだけだとわかって、少し落ち着いた。それはよかった。落ち着いたと言っても、ほんの少しだったとしても、フランソワーズに迷惑がかからないなら、元婚約者がどうなろうともフランソワーズは気にしない。むしろ、ざまぁな展開になればいいと思っていたが、それを言葉にすることはなかった。
更には、ファビアンは正直なところ、ホッとしていると言い出してフランソワーズとエディットは、ん?と思って、そちらを見た。鬼の形相は、どこかに消えていた。
「お兄様……?」
「ファビアン様」
「むしろ、あいつに義兄と呼ばれるのにぞわぞわしてたんだ」
「「……」」
どうやら、フランソワーズとエディットの手前、本音を今まで隠していたようだ。凄い鳥肌が立つといい、実際にそうだったことに苦笑してしまった。
エディットは、王女が気になるのもあり、実家が心配だと婚約者との別れとフランソワーズたちとの別れを残念そうにしながら、留学を切り上げて帰国していった。
「なんか、せせこましいな」
「本当ですね」
ゆっくりしたいと思っても、させてもらえないことにフランソワーズはげんなりしていた。
その後、数日して、エディットから手紙が来たのだが……。
「え?」
「フランソワーズ、どうした?」
兄が、フランソワーズの側に来たので、すぐさま手紙をファビアンに見せた。するとすぐに父に声をかけてくれて、フランソワーズはその日から学園に行くのをやめた。
エディットの手紙に王女との婚約が取り消しになって、フランソワーズとの婚約を撤回してもらうのにそちらに行こうとしているようだとあったのだ。
どうやら、王女は一目惚れしやすい質で、心変わりしやすい女性のようだ。それを真に受けて、エディットの兄はフランソワーズとの婚約を破棄したようだ。
その王女の一目惚れしたという言葉は、半信半疑で聞いている方が良かったようだ。それを知らなかったらしく、王女との婚約の方を選んで笑い者になっていることまで書いてあった。
それに焦ったエディットの兄は、撤回してくれと親に頼んでも説教されるばかりで、自分で動くことにしたようだ。
自分が謝罪して、撤回を頼めばフランソワーズが聞き入れてくれると信じて疑わないのは、フランソワーズの兄のファビアンがいるからも大きかったのだろう。
未だに友達だと思っているのだから、おかしな話だ。妹を傷物にした男と未だに友達だと思う兄は、そんなに多くないはずだ。
そもそも、ファビアンは妹の婚約者だからという理由で仲良くなったようで、それ以上でもそれ以下でもなかった程度でしかなかったのに気づいてなかったのだろう。
ましてや理由が、理由だ。フランソワーズよりも、王女を選んであっさりと捨てたのだ。そんなのと今後も友達付き合いなんてしたら、将来に関わることくらいわかりそうなものだが、そんな余裕もなくなっているのだろう。その辺のことが見えていないくらい必死になっているのだけはわかったが、ひつになる方向が完全に間違っている。
それこそ、フランソワーズに迷惑がかからないのなら、どこでそんなことが起こっていても気にしなかったが、関係者になっている時点で遠い目をしていた。
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