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「ディアーヌ嬢」
「何よ!?」


それこそ、いつもと違うことが続いた。騒いでいるところに話しかけて来る人は普段いない。でも、この時は違っていた。


「ずっと話しかけるタイミングを図っていてんだが」
「は? 今は忙しいのよ。後にして!」
「後にする気はない。自己紹介する気もないが、これだけを伝えたくて話しかけたんだ。君との婚約を破棄させてもらう」
「へ?」


ディアーヌは、それが自分の婚約者だと気づかなかったようだ。

どうやらディアーヌに話しかけたそうにしていた子息が、そうだったようだ。フランソワーズは通りで見かけるはずだ。もっとも、見ていたのはフランソワーズだけだったようだが。


「それとその聞くつもりはなかったんだが、せっかく留学しに来たのなら、授業を受けてからにしたらどうだろうか?」
「……」


エディットは、眉を顰めていた。物凄く嫌そうにしていた。

それを子息は、自己紹介もしないせいだと思ったようで、挨拶をやり直していた。彼が悪いわけではないが、物凄くいい子息なのは間違いない。気を悪くさせたまま帰したくないのがよくわかった。

そこから、フランソワーズもエディットを引き止めるべく言葉にした。せっかく、友達になれそうなのだ。このままお別れするわけにいかない。何よりフランソワーズの婚約者の妹だ。今後のこともある。それもあって、フランソワーズは必死になっていた。打算あり気で申し訳ないが
過去が最悪でも、未来はそうなってほしくなくて必死になってしまっていた。


「そうですよ。エディット様、せっかくですから授業受けてみては?」


フランソワーズも、その子息の後押しのように言葉を紡いだ。せっかく来たのにお別れしたくなかったのも大きかった。半分以上が、婚約者のまだ見たことない存在がちらついてならなかったが、友達になりたいのに嘘はない。


「そうだな。君の兄が、怒り狂って乗り込んで来そうだから、楽しんで帰ってくれるとありがたい」
「……お兄様。そうね。あの人なら、やりかねないわ」


ファビアンの言葉に眉を顰めつつ、エディットは困った顔をした。

そこから、ディアーヌと婚約破棄すると言った子息は、ホッとした顔をして、他に用事があるからといなくなった。

ディアーヌは呆然としていたが、婚約破棄されるわけにいかないと思い至ったのか。慌てて子息を追いかけて行った。

彼女にしては珍しく、フランソワーズのことを怒鳴りつけていない。いや、最初に怒鳴っていたがあれはいつものことだ。誰だかわかって怒鳴れなくなるのは、初めて見た気がする。


「あ、あの」
「……」
「よ、良ければ、学園を案内するが」
「結構よ。それを聞いていなかったの? あなたとの婚約は破棄してもらうのは変える気はないわ」
「え?」


ガスパールは、ここに残る=婚約を破棄するのをやめたと思ったようだ。

それを聞いて、心底驚いた顔をガスパールがしていた。それに全員が呆れたのは言うまでもない。これだけの騒ぎになって人が集まって来ていた。そんな中で、ガスパールだけが都合のいい方向に考えていることだけはよくわかった。

幼なじみのフランソワーズでなくとも、流石にその思考はヤバいだろうと思っていたが、こういう子息なのだと思ってしまう方が大きかったようで、エディットの目はより一層冷めていた。


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