上 下
5 / 14

しおりを挟む

「フランソワーズ様。その方々を紹介してくださらない?」
「……えっと」


このタイミングかとフランソワーズは思ったがしないわけにはいかない。フランソワーズが間に入らないといけないのはわかるが、できればしたくない。

ちらっと兄の方を見ると、関わりたくなさそうな顔をしていた。逆の立場なら、同じ気持ちだから巻き込む気はなかった。

なのに幼なじみたちは、フランソワーズの心情など欠片も汲み取ることも、エディットの意味するところを知ろうともしなかった。隣から兄の無言の頑張れってオーラを感じるが、それにイラッとしかけている。そんな無言の応援をするなら、いなくてもいい。

まぁ、いつも他人の気持ちなんてわかったことがない幼なじみたちだが、学園で見慣れないせいと余裕がなさすぎて、フランソワーズのせいにして済ませようとして、こんなことを言ったようだ。更に言うとは思っていたことを言った。


「は? 今は、こいつと話しているんだ。邪魔しないでくれ!」
「そうよ!」


こいつって言葉にフランソワーズは、イラッとしたが笑顔で頼まれたことをやることにした。そうしなければ、すすまない。フランソワーズが、やるしかない。幼なじみの馬鹿っぷりに付き合っていられない。


「2人共、こちらエディット様。あちらの令嬢が、ディアーヌで。ガスパール、彼女があなたの婚約者よ」
「は?」
「え?」


幼なじみは間抜けな顔をしていた。聞いていたようでよかった。そうでなかったら、理解するまで言い続けないと駄目になるところだった。

そうならないだけでも、珍しい。昨日の今日だから、余裕なさすぎて、こうはならない気がしたが、そんなことなくて本当に良かった。

だが、そんないつものことをエディットは知らない。


「あら、元婚約者よ。留学しに来たけど、挨拶だけして帰ることにしたの。昨日も、2人が喧嘩しているのを見たわ。それに今のも、そうだけど。ありえない。何で、フランソワーズ様のせいみたいにできるの? 信じられないわ」
「っ、」


ガスパールは、あーいやーそのーと言っているだけで、視線が助けを求めるものになっていたが、フランソワーズは助ける気はなかった。

ディアーヌは、元婚約者と聞いて嬉しそうにしていた。


「そう。ガスパールの魅力がわからないのね。残念な人ね」
「わからなくて結構よ。それこそ、あなただって婚約しているのでしょ? 幼なじみを庇ってる暇ないんじゃない?」
「は? そんなこと、あなたに関係ないでしょ!」
「確かにそうね。それより、一々、怒鳴らないでくれる? この距離だから、そんなことしなくても聞こえるわ」
「何ですって!? 一々、癪にさわる女ね!」


エディットとディアーヌは、とことん合わないようだ。留学をするのをやめて帰る気でいるエディットは、ディアーヌに負けていなかった。

フランソワーズは、ヒートアップしていく2人を見て、ガスパールを見た。おろおろするばかりで、止めるに止められずにいた。その情けないことといったらなかった。

きっと、ディアーヌと言い争っていた勢いで怒鳴ったが、よくよく見たらエディットが美人だと気づいて強く言えなくなったのかもしれない。そもそも美人なのに自分の婚約者にはありえないなんて思っていたに違いない。とことん、間の悪い男だ。そもそも、余計なことをしてばかりいるのも美人な令嬢によくしていた。本人はそれで株をあげていると思っているようだが、そんなことはない。真逆なことをしていた。
 
ガスパールは、そういう幼なじみだ。これを機に縁が切れたらいいとすら思えていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その令嬢は、実家との縁を切ってもらいたい

キョウキョウ
恋愛
シャルダン公爵家の令嬢アメリは、学園の卒業記念パーティーの最中にバルトロメ王子から一方的に婚約破棄を宣告される。 妹のアーレラをイジメたと、覚えのない罪を着せられて。 そして、婚約破棄だけでなく公爵家からも追放されてしまう。 だけどそれは、彼女の求めた展開だった。

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

未来の記憶を手に入れて~婚約破棄された瞬間に未来を知った私は、受け入れて逃げ出したのだが~

キョウキョウ
恋愛
リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアはある日突然、ヘルベルト王子から婚約を破棄すると告げられた。 その瞬間にコルネリアは、処刑されてしまった数々の未来を見る。 絶対に死にたくないと思った彼女は、婚約破棄を快く受け入れた。 今後は彼らに目をつけられないよう、田舎に引きこもって地味に暮らすことを決意する。 それなのに、王子の周りに居た人達が次々と私に求婚してきた!? ※カクヨムにも掲載中の作品です。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

ある愚かな婚約破棄の結末

オレンジ方解石
恋愛
 セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。  王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。 ※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?

瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」 婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。 部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。 フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。 ざまぁなしのハッピーエンド! ※8/6 16:10で完結しました。 ※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。 ※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...