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「ねぇ、フランソワーズ」
「……何?」


幼なじみにこれまで以上に学園にいる間、何かと付きまとわれてフランソワーズはげんなりしていた。

おかしすぎる。婚約者ができたのなら、そちらを優先してくれればいいのに。なぜか、つきまとわれているのだ。なぜだか、全くわからないが、ガスパールはにこにこしていて、今まで見たことないほど、上機嫌で気持ち悪くて仕方がない。

そんな時にガスパールとディアーヌのことをあまり好きではない友達が、何やら聞きにくそうにフランソワーズに尋ねて来た。

若干どころか。イライラしていたフランソワーズは、不機嫌を隠しきれずに応対してしまった。

友達は全く悪くないのに申し訳ない。こんな八つ当たりをされたら、たまったものではないはずだ。気を悪くさせたかと思って、しまったと思って見た。

すると友達は、そんなフランソワーズの態度など気にしていないようで、気にする余裕のないように意を決して口を開いた。


「幼なじみの彼と婚約したって聞いたけど、本当なの?」
「は? 誰が、あいつと婚約したって?」


先程、申し訳ないと思ったはずなのに思わず不機嫌な声音を隠そうともせずにイライラどころか。不愉快を全面に出した感じで聞き返してしまった。


「あなたよ」
「はぁ? 私なわけないわ。冗談でもやめてよ。ただですら、つきまとわれてイライラしてるのに」


鳥肌が立ってしまった。そんな冗談でもフランソワーズは耐えられなかった。ゾワゾワして腕を擦ってしまったではないか。

なんてことを言い出すのだと友達を見れば、複雑そうな表情をしていた。なぜ、彼女がそんな顔をするのだろうか?

何だか、物凄く嫌な予感がしてならない。フランソワーズは、その予感が外れることを願っていたが……。


「でも、あっちは、あなたと婚約したみたいに周りに言ってるわよ?」
「……」


そんなことを友達に言われた。フランソワーズの幼なじみに関する願いは叶ったことがない。どうにかしろと神様は、フランソワーズに丸投げしている気がする。

神様にそんな風に期待しているのではなくて、何だか見捨てられている気がしてならないフランソワーズは、イライラを通り越して気が変になりそうになっていた。

ガスパールが、婚約者はフランソワーズになったと吹聴して回っていたらしく、他の友達からも本当のところ、どうなのかと聞かれて頭を抱えたくなった。聞いて来る相手が悪いわけではないが、怒鳴りたくなった。

あまりに言われるので、フランソワーズは確かめてみればはっきりすると思って探してみれば、……本当にしていた。本当に何してくれてんだろうかとフランソワーズはイラッとした。


「フランソワーズと婚約したが、あっちは照れているみたいなんだ」
「照れてる……?」
「長らく幼なじみだったからな。無理もない」
「いや、お前、あれはどう見ても……」


ガスパールの話を聞いている子息は、照れているようにはまだ見えないし、むしろ全身で毛嫌いしているようにしか見えないと言いたげにしていたが、それを言うことはなかった。きっと面倒なことになるのを知っているからだろう。

それを耳にして、フランソワーズは殺意しか芽生えなかった。何を考えているんだとフランソワーズが思って、ガスパールのところに突撃しようとしたら、凄い形相でフランソワーズの横を駆け抜けて行った令嬢がいた。

ディアーヌっぽいなと思っていたら、本人だった。彼女が凄い勢いでガスパールのところに駆け寄って、こんなことを言っていた。

フランソワーズは、面倒くさそうなことが始まりそうだと遠巻きにそれを見ることにして、縮めようとした距離を離すことにした。これは、幼なじみがしてきたと思っているんだ。面倒に巻き込まれるとわかっていて、呆然と立ち尽くしたままでいたら、これまで以上の面倒に何倍もあってきたことか。そのため、逃げれるチャンスだとわかると動けるものだ。……そんな条件反射だけが鍛えられている。

とりあえず、頭に血が上った状態で話すと恥をさらすだけだと落ち着きたかったのもあった。ギリギリセーフというやつだ。

こんな時だけ、ディアーヌが先に現れてよかったと思えてならなかった。

日頃から、こうだといいが無理だろう。


「ちょっと、ガスパール! フランソワーズじゃなくて、あなたと婚約したのは、私なんだけど!!」
「は? お前なわけないだろ」
「お前なわけないって、どういう意味よ!」
「そのまんまだろ!」


そこから、ガスパールとディアーヌは大喧嘩を繰り広げたが、フランソワーズはどちらの婚約者のことも聞いていないため、首を傾げずにはいられなかった。

ガスパールが、婚約者を勘違いしているのはよくわかるが、ディアーヌの婚約者がガスパールなのは本当なのだろうか?

チラッと違う方向を見るとディアーヌの後を何かとついて回っていた子息が、ショックな顔をしていた。

それこそ、最近ディアーヌが以前に増してガスパールとフランソワーズのところに来るようになって話しかけたくとも、タイミングがつかめない子息がいたのをフランソワーズは、よく見かけていた。

それとは別に令嬢もいた。その令嬢も、何やら不愉快そうに喧嘩を始めた2人を見て眉を顰めていた。

同じ学年では見かけない顔をしていた。いや、そもそも、この学園にいただろうか? 凄い美人だ。いたら、何かと話題になっていそうだが、色々ありすぎて耳にする余裕がなかったのかもしれない。

フランソワーズは、今ほど幼なじみに関わりたくないと思ったことはなかった。存在感をひたすら隠して、帰宅した。


「あら、フランソワーズ。早いわね」
「お母様。幼なじみが、誰と婚約したか、ご存じですか?」
「もちろん。知っているわよ」
「……」


そう言いながら、にこにこしていて母は答えようとしなかった。それにフランソワーズはイラッとしてしまった。


「フランソワーズも、やっぱり気になるのね」
「……」


その言葉で、フランソワーズははっきり言わなきゃわからないのかと思った。今、この母親にゆっくりと付き合う気にはなれなかった。


「ガスパールは、私と婚約したと言っていて、ディアーヌはガスパールと婚約したと言っているんです」
「……ちょっと、待って。今、なんて?」
「ですから」


ややこしいから言いたくなかった。フランソワーズは、その話をしたが……。


「そんな馬鹿なことをするわけないわ」
「……」
「ちょっとした誤解でしょ」
「……」


さも、フランソワーズが大袈裟に言っていると思ったようだ。母は、フランソワーズの話を殆どどころか。何一つとして信じていないようだった。

それにもイラッとした。フランソワーズは、この母とこうして話すこと自体が嫌なのも大きかった。面と向かって話すなんて、いつぶりだろうか。できれば、話しかけることなんてないままでよかったと思うくらいだが、どんなに頭にきても聞かないわけにはいかない。


「フランソワーズが言ってるのは、本当だよ」
「お兄様……? えっと、お帰りなさい」
「ただいま。フランソワーズ」


フランソワーズの兄が戻って来たようだ。フランソワーズは、兄が帰って来たのに驚きつつ、そう言うとにっこりと笑ってくれた。荒んだ心が、それだけで癒される。フランソワーズは久しぶりに安堵した。


「本当だなんて、どうしてあなたが知っているのよ?」
「先生に挨拶したくて、こっちに寄る前に学園に顔を出したからだよ。向こうからの留学生も、こっちに婚約者がいるから、先生より先に婚約した子息を見たかったようだから、案内しようとしたんだ」


そう、フランソワーズの兄のファビアン・ユベールは、隣国に留学していた。週末に帰って来る予定を早めたのは、案内を頼まれたからのようだ。


「それが、あんなの見させられるとはね」
「その方と仲良くなられたのですね」
「いや、彼女の兄と意気投合してね。フランソワーズも、気に入るはずだよ。とてもいい奴だし、その妹もいい子だから」
「……お兄様。私、婚約したのですが」
「うん。だから、フランソワーズの婚約者と仲良くなったんだ」
「え?」


フランソワーズは、目をパチクリさせてしまった。それに兄がきょとんとした顔をした。


「ん?」


兄は、妹が喜ぶと思っていたのに驚いているのに不思議そうにした。


「ちょっと、ファビアン。あなたまで、おかしなこと言わないで。フランソワーズの婚約者は、隣国ではなくて、この国の子息よ」
「何を言ってるんだよ。フランソワーズの婚約者は……」


そんなことを言っているところに父が帰って来て、ファビアンが家にいるのを見て笑顔になったが……。


「こんなところで、何をやってるんだ?」
「父上。フランソワーズの婚約のことですが……」
「なんだ? お前は、反対なのか?」
「いえ、確認したいだけです」
「ん? 確認だと?」


フランソワーズは、そこで婚約者を自分も勘違いしていたことを知ることになるとは思いもしなかった。

そう、母親がそもそも間違っていたのだ。それに呆れ果ててしまった。

おかしいな。両親から婚約の話を聞いたはずなのに。どうして、こんな事になったのだろうかという笑えない勘違いをしていた。


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