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しおりを挟むエウフェシアたちの居る世界で、選ばれた者は永久の幸せを掴むと昔から、そう言われていた。いつから言われるようになったことなのかは誰も知らない。でも、そう信じられていた。
選ばれる者が現れるなら、クレオンの国に住む者になるだろうとその世界の人たちは誰もが思っていた。
そして、ループする前までは、ループが始まる前までは、その幸せを掴むのはアルテミシアだと思っていた。エウフェシアも、そのうちの1人だった。姉のような人が、掴むに相応しいと思っていた。
雛を殺せとエウフェシアに言う面々は、人間とは思えなくなっていた。姿形は人間だけど、中身は人間なんかではなくなっているようにエウフェシアには見えた。
中身だけでなくて、見た目が酷いことになっていることにも、誰も気づいていなかったし、それを気にもしていなかった。異様な光景にエウフェシアには見えた。
「ぴぃ!!」
「っ、」
一際大きく鳴いた雛が、光り輝くのをエウフェシアは見た。揉みくちゃにされて、酷い格好をしながら、エウフェシアが美しい鳥に成長するのを見て、涙を流した。
(なんて、綺麗なの)
エウフェシアは、空を自由に飛ぶのを見て笑顔となった。それをずっと見ていることは叶わなかった。鬼の形相をしたアルテミシアが石を持って視界に入ってきたのだ。
鳥を遮るように見たくもない姉の顔をエウフェシアは見ることになった。
(邪魔だわ。鳥が見えない)
「あんたのせいよ!」
「っ、!?」
アルテミシアは、妹に暴言を吐きながら、石を何度、何度もエウフェシアの顔に振り下ろし続けた。逃げようとしたエウフェシアの身体を取り押さえていたのは、追いかけ回していた面々だった。
(っ、お姉様に、殺されるのは、初めてだわ)
「死ね、死ね、死ね!!」
「っ、」
激痛が襲って逃れようとするが、それも叶うことはなかった。
(もう、ループしたくない)
「ぴぃー!!」
「……」
鳥が鳴くのがエウフェシアの耳にずっと届いていた。
(ここに居ちゃ駄目。遠くに逃げて。ここに居たら、殺されるわ。遠くに、逃げて)
エウフェシアは、もう空を飛ぶ美しい鳥を見ることができなくなりながら、鳴き声だけを聞いていた。死にゆく間、助けを求めることはなかった。
ただ、成長して鳥が殺されないことだけを心配しながら、人生を終えることになった。
一番最悪な死に方が、それだった。姉自らがエウフェシアを殺したのだ。それまで、ただの一度も姉がエウフェシアを傷つけることはなかった。常に言葉のみだったのにこの時は違っていた。
ヘシュキオスも、他の生徒たちもエウフェシアを取り押さえることに加担していた。王太子とイオアンナは、加担することはなかったが、助けることもせずに傍観していた。
そんな風にエウフェシアを殺したことで、これまでのようにエウフェシアのことを死んでからも散々に言う者はいなかった。残された者たちだけが、これまで通りに幸せになることもなかった。
すぅーとエウフェシアの惨たらしい死体は光りに包まれて消えることになり、美しく成長して、ずっと鳴いていた鳥もエウフェシアと一緒に消えていた。
残ったのは、これまでエウフェシアのことだけを悪く言い、悪者にし続けていた面々だった。
「な、何てことをしたんだ」
「え? あ、そんな、これは……」
アルテミシアは、王太子の呟きによって、血だらけになった手と石を持っているのを見て震えながら、石を投げ捨てた。そして、酷い格好をしているのにハッとした表情をした。
消えた死体のことより、姉が妹を殺したという事実だけが残って、騒ぎになったのだ。それを手助けするように押さえつけていた面々と傍観していて何もしなかった面々とが、言い争うことになったのは、すぐだった。
「妹を殺すなんて、信じられない!」
「っ、それを言うなら、動けないように押さえつけていたあなたたちだって、同罪でしょ!」
「あれは……。いや、抑えていたかも知れないが、顔をぐちゃぐちゃに殴り殺したのは、アルテミシアじゃないか。一緒にするな!」
「っ、」
アルテミシアは、ヘシュキオスや他の令嬢たちと口論になり、更には傍観していただけの面々とも、口論することになったのは、すぐのことだった。
「見ているだけで止めもしなかった人たちも、同罪よ!」
「そ、そうだな。何で、止めてくれなかったんだ!」
「そうね。そうよ」
「そんな、手を下した人たちと一緒にされたくないわ」
これまで、ループし続ける間にそうならなかったことが変なくらい、罪のなすり合いをし続けていたが、自分が悪かったと言う者が現れることはなかった。
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