16 / 40
16
しおりを挟む「エウフェシア様、少しよろしいかしら?」
「……」
ループし続けているせいで、エウフェシアは馬鹿らしいほど通っている学園で、そんな風に呼び止められたのは、初めてだった。かと思えば姉の友達面した令嬢たちが、そこにいた。エウフェシアのことをいつもいつも悪く言い続けていた令嬢たちが、そこにいた。彼女たちの名前をエウフェシアは覚えていない。そんな令嬢たちに声をかけられて、うんざりした顔をしてしまうのは無理はなかった。
(面倒くさいことになりそう。……それにこれは、初めてだわ。今度は、何が起こるんだか)
姉によって、婚約者が浮気を始めたことに対することをエウフェシアは色々言われた。今更、それを騒ぎ立てて言うのかと思ってしまったが、もとよりおかしい世界だ。気にしていてもしょうがない。
「あなたが、ちゃんとしないからよ!」
「そうよ」
やはり、ここでもエウフェシアが悪いと責め立てられることになった。どうせ、そうなるだろうとはエウフェシアは思っていたが、今更すぎることを言われたのとここまで来てもエウフェシアが悪いと言うのにイラッとしてしまった。
「……それ、本気で言っているの? 私がちゃんとしようとしまいと婚約する前から浮気しているのは、お姉様とヘシュキオス様だし、婚約してからはあなたたちの婚約者と浮気しているのよ? たくさんの子息と浮気しているお姉様が、そもそも悪いとは思わないの?」
「それは……」
エウフェシアが初めてそこに物申すようなことを言うとそれもそうよねと言わんばかりの顔をして困惑した顔をする令嬢たちが多かった。
おかしな話だ。ループしていることを知っているというか。覚えているのはエウフェシアだけのはずなのに、目の前の令嬢たちも知っているかのような反応を見せたのだ。
でも、この時のエウフェシアはそこまで気が回ることはなかった。
「それに前に言っていたわよね? 浮気される方が悪いって。なら、今のあなたたちも、浮気されてるんでしょ? 自分たちが悪いとは思わないの?」
「っ、私たちが悪いですって!?」
「できの悪いあなたがいるせいでしょ!!」
「……」
そう返されて、眉を顰めずにはいられなかった。
(意味がわからないわ。どうして、ここまで私が悪いと言うのよ。一番最初らへんならわかるけど、ここまで来たら私より悪女なのは、どこからどう見てもお姉様じゃない。なのにどうして、私のせいにしたがるのよ)
そのうち、なぜか王太子にアルテミシアよりもエウフェシアの方を自分の婚約者にしたいと言われるようになっていて、それにはぎょっとしてしまった。
ループするたび、エウフェシアと婚約したいと言われるようになったのだ。完璧なはずのアルテミシアよりも、出来損ないとしか言われていないはずのエウフェシアを当たり前のように選ぶようになるまで、どのくらいループしてきたことか。
だが、そちら方向に展開することにエウフェシアは頭を抱えたくなった。そんな展開を望んだことは一度もない。
(そこは、本命の令嬢と婚約したいって言うところでしょ!? 何で、よりにもよって、私と婚約したいなんて言うのよ!!)
どうやら、王太子は彼の本命が周りには一切バレていないと思っていたようだ。エウフェシアは、姉より王太子の婚約者に相応しい相手となり、王太子自らに選ばれることになったことで、エウフェシアが浮かれると思って、その後、本命と婚約するのを助けてくれると思ってのことのようだ。
だが、そこに大きな勘違いがあることに王太子は気づいていない。エウフェシアが、王太子と婚約しても喜ぶなんて気持ち欠片も持ち合わせていないのだ。
むしろ、迷惑でしかない。見た目がよくとも、見て来た彼を男として好きになれるところなど欠片もなかった。
そもそも、本命がいるのだ。本命とくっつけばいいのにそれを完全に諦めてエウフェシアを選んだなら、まだわかる。でも、それをしないのだ。そんな男性を選ぶはずがない。
(浮かれるなんてあり得ない。王太子も、完璧な人じゃないのが、よくわかったわ。私のせいにして、姉妹で仲違いさせて、本命と婚約するのに利用するつもりなんだわ)
でも、選ばれたからといって、欠片も浮かれすぎてすらいないのに最後はやっぱりエウフェシアが悪いことにされて、勘当だけで飽き足らず、してもいない罪を犯したとして、犯罪者にまでされて処刑されることになってしまったのだ。
王太子の婚約者になったことで、とんでもない最期を迎えるはめになったエウフェシアは気がおかしくなりそうだった。
(もう、ループしたくない。こんな死に方するのは、もう嫌)
酷くなっていく状況にそんなことを思ってしまったが、それが終わることはなかった。
27
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる