完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら

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「エウフェシア様、少しよろしいかしら?」
「……」


ループし続けているせいで、エウフェシアは馬鹿らしいほど通っている学園で、そんな風に呼び止められたのは、初めてだった。かと思えば姉の友達面した令嬢たちが、そこにいた。エウフェシアのことをいつもいつも悪く言い続けていた令嬢たちが、そこにいた。彼女たちの名前をエウフェシアは覚えていない。そんな令嬢たちに声をかけられて、うんざりした顔をしてしまうのは無理はなかった。


(面倒くさいことになりそう。……それにこれは、初めてだわ。今度は、何が起こるんだか)


姉によって、婚約者が浮気を始めたことに対することをエウフェシアは色々言われた。今更、それを騒ぎ立てて言うのかと思ってしまったが、もとよりおかしい世界だ。気にしていてもしょうがない。


「あなたが、ちゃんとしないからよ!」
「そうよ」


やはり、ここでもエウフェシアが悪いと責め立てられることになった。どうせ、そうなるだろうとはエウフェシアは思っていたが、今更すぎることを言われたのとここまで来てもエウフェシアが悪いと言うのにイラッとしてしまった。


「……それ、本気で言っているの? 私がちゃんとしようとしまいと婚約する前から浮気しているのは、お姉様とヘシュキオス様だし、婚約してからはあなたたちの婚約者と浮気しているのよ? たくさんの子息と浮気しているお姉様が、そもそも悪いとは思わないの?」
「それは……」


エウフェシアが初めてそこに物申すようなことを言うとそれもそうよねと言わんばかりの顔をして困惑した顔をする令嬢たちが多かった。

おかしな話だ。ループしていることを知っているというか。覚えているのはエウフェシアだけのはずなのに、目の前の令嬢たちも知っているかのような反応を見せたのだ。

でも、この時のエウフェシアはそこまで気が回ることはなかった。


「それに前に言っていたわよね? 浮気される方が悪いって。なら、今のあなたたちも、浮気されてるんでしょ? 自分たちが悪いとは思わないの?」
「っ、私たちが悪いですって!?」
「できの悪いあなたがいるせいでしょ!!」
「……」


そう返されて、眉を顰めずにはいられなかった。


(意味がわからないわ。どうして、ここまで私が悪いと言うのよ。一番最初らへんならわかるけど、ここまで来たら私より悪女なのは、どこからどう見てもお姉様じゃない。なのにどうして、私のせいにしたがるのよ)


そのうち、なぜか王太子にアルテミシアよりもエウフェシアの方を自分の婚約者にしたいと言われるようになっていて、それにはぎょっとしてしまった。

ループするたび、エウフェシアと婚約したいと言われるようになったのだ。完璧なはずのアルテミシアよりも、出来損ないとしか言われていないはずのエウフェシアを当たり前のように選ぶようになるまで、どのくらいループしてきたことか。

だが、そちら方向に展開することにエウフェシアは頭を抱えたくなった。そんな展開を望んだことは一度もない。


(そこは、本命の令嬢と婚約したいって言うところでしょ!? 何で、よりにもよって、私と婚約したいなんて言うのよ!!)


どうやら、王太子は彼の本命が周りには一切バレていないと思っていたようだ。エウフェシアは、姉より王太子の婚約者に相応しい相手となり、王太子自らに選ばれることになったことで、エウフェシアが浮かれると思って、その後、本命と婚約するのを助けてくれると思ってのことのようだ。

だが、そこに大きな勘違いがあることに王太子は気づいていない。エウフェシアが、王太子と婚約しても喜ぶなんて気持ち欠片も持ち合わせていないのだ。

むしろ、迷惑でしかない。見た目がよくとも、見て来た彼を男として好きになれるところなど欠片もなかった。

そもそも、本命がいるのだ。本命とくっつけばいいのにそれを完全に諦めてエウフェシアを選んだなら、まだわかる。でも、それをしないのだ。そんな男性を選ぶはずがない。


(浮かれるなんてあり得ない。王太子も、完璧な人じゃないのが、よくわかったわ。私のせいにして、姉妹で仲違いさせて、本命と婚約するのに利用するつもりなんだわ)


でも、選ばれたからといって、欠片も浮かれすぎてすらいないのに最後はやっぱりエウフェシアが悪いことにされて、勘当だけで飽き足らず、してもいない罪を犯したとして、犯罪者にまでされて処刑されることになってしまったのだ。

王太子の婚約者になったことで、とんでもない最期を迎えるはめになったエウフェシアは気がおかしくなりそうだった。


(もう、ループしたくない。こんな死に方するのは、もう嫌)


酷くなっていく状況にそんなことを思ってしまったが、それが終わることはなかった。


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