完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

１４

エウフェシアは、それでも自分の目で見るまで信じていなかった。

ループする前なら、そんなわけがないと否定していただろうが、ループし続けているせいで完璧な姉はエウフェシアの中から居なくなってはいた。ガラガラと完璧なはずの姉が、そうではないとなるのも早かったが、まだ崩れるものが残っていたようだ。


（どれだけ、姉のことを完璧なままだと思っていたんだろ。とっくに幻滅していたはずなのに。こんなにショックを受けるほどにまだ姉のことで、誤解していたことがあったなんて、それにもびっくりするわ）


どんなにループしていても、エウフェシアの頭の中で姉の浮気相手は１人だけで、ヘシュキオスだけだと思っていたかったようだ。

アルテミシアも、中身はヘシュキオスと大して変わりはなかったようだ。共通する部分が、この２人にあると思いたくはなかったが、浮気相手というか。モテすぎる令嬢として、ちやほやされているだけで浮気なんて言えるようなものではないと思っていたところは、そっくりだったようだ。

ちょっと話しただけで、王太子という婚約者がいるのに他の男性と楽しげに話していたのを面白おかしく脚色されたのだとと思っていた。周りは、そういうのを脚色するのが大好きで、自分たちが話題にされて笑い者にされなければ、いい人たちばかりで、ずっとエウフェシアが餌食になってきていた。今回は、珍しくアルテミシアがその餌食になっているのだとも思っていたが、そうではなかったのだ。

アルテミシアのたった1人の親友が王太子と相思相愛だと言うことがわかってから、姉は人が変わってしまったようだ。浮気している数が、ヘシュキオスのことなどとやかく言っていられないほど酷くなってしまったのだ。

エウフェシアに言っていた頃より、アルテミシアは酷くなっているようで、今ならそんなこと姉にだけは言われたくないと言い返してもよさそうだが、ループする前のことなど覚えていないのだ。言ったところで話が通じることはない。


（姉さんの友達面した令嬢たちの婚約者にまで色目を使っていたなんて、知らなかった。……知りたくもなかったけど。まぁ、お姉様に色々言われたら勘違いする子息も多くいそうよね。でも、それもループする前までなら、それも納得だけど。今の状態で、王太子っていう婚約者がいるのも不思議な状態で、好き勝手しすきだわ。相手の子息たちも、どうかしてるわ。婚約者より、王太子を怒らせたら大変なことになるとは思わないのかしらね）


どれも、これも、エウフェシアは根も葉もないことだと聞いた最初の時はそう思っていた。きっと、最初は根も葉もないものだったのかも知れないが、今は違うのは明らかだ。

ループし続けて、どこで分岐したのかわからないが、実際に姉が何をしていたかを見ることになったのだ。そんなわけないと思っていたところをエウフェシアが自分の目で目撃することになったら、嘘だとは思えるはずがない。


（そっち方面に傾いていってるのはよくわかるけど、これでも完璧な令嬢だからみたいに好き勝手させているのもあるみたいね。どうしてなんだろ？　私が何もしないせいで、こうなっているみたいに死ぬことになるのも、いい加減にしてほしいわ。……まぁ、何もしようとしてないのは、間違いではないけど。だから、ループしてるってのも、変よね？）


そんな疑問が生まれ始めていたエウフェシアを他所にアルテミシアは、何食わぬ顔をして婚約者の側に居続けた。

王太子は、アルテミシアが何をしているかを把握しながら普通にしていた。エウフェシアにその話をするのだが、上手くいかなくなるとエウフェシアのせいにして、イオアンナとの想いを断ち切るのだ。

周りも、婚約者がアルテミシアと浮気しているとわかっているはずなのにアルテミシアを責め立てずにエウフェシアを罵倒するのだ。


「あなたのせいよ！」
「あなたが、出来損ないなせいよ！！」
「っ、」


令嬢たちは、こぞってエウフェシアを怒鳴り散らした。すぐ近くにアルテミシアやヘシュキオス、王太子やイオアンナがいても庇ってくれることはなかった。


（何なの？　婚約者が何をしているかを知っているのに。どうして何もしないの？　どうして、私を利用しようとするのよ。当事者で話し合えばいいのに）


でも、時折エウフェシアと王太子の目が合うようになったのは、アルテミシアが何をしているかを話すようになって、ループするようになってからだった。縋るような目をエウフェシアに向けるようになったのだ。そんな風に縋られたくない。

エウフェシアが、王太子にその話をされたくなくて回避しようとすればするほど、向こうがエウフェシアを追いかけて来てまで話すようになっていた。その話をされないと次の話に進まないかのようになっていた。


（やめてよ。私を巻き込まないで。どうして、その話をされる方向に無理やり行くのよ！？）


ヘシュキオスは次第にアルテミシアの方を婚約者のエウフェシアよりも優先するようになっていたが、ループが続くうちに段々と酷くなっていっていた。

アルテミシアも、同様に完璧な令嬢とは程遠い令嬢へと変貌していた。

それでも、周りは……。


「出来損ないの令嬢が妹だったり、婚約者だと大変よね」
「本当にね」


ヘシュキオスのことも、アルテミシアのことも、大して悪く言うことが続くことはなかった。