完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら

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エウフェシアと婚約したことで婚約者となった侯爵家の子息のヘシュキオス・カサヴェテスも時折、話題になっていた。話題にあがったことがないわけではない子息だったようだが、エウフェシアはその手の話を聞いたことはなかった。エウフェシアの話題に比べたら、大したことではないものばかりだと思っていて、婚約する前のことを調べようとも思わなかった。

そんなエウフェシアと違って、婚約者の方は最初は話題にあがっていることに浮かれていたようだ。エウフェシアとの婚約というより、公爵家の令嬢と婚約して婿入りできることに対してだったようだが。


「あいつ、浮かれすぎてないか?」
「高価なものを身につけたところで、足りないところが埋まるわけではないんだがな」
「だよな」


ヘシュキオスの友人たちは、そんなことを話していた。本人がいないところで、浮かれすぎておかしな格好をしていると散々なまでに笑っていたが、しばらく、そんな日々が続いていたかと思えば、ふと変だと思ったようだ。


「あんなのと婚約させられるのも、変だよな。身分はつり合うかも知れないが、中身があれじゃ婿入りさせた後が大変だろうしな」
「そう言われるとそうだな」


エウフェシアとその婚約者となったヘシュキオスとを比べれば、できの悪さは子息の方がかなり上に位置しているのは明らかだった。

そのうち、エウフェシアだけが標的となってヘシュキオスの方は、エウフェシアと婚約することになったから自分の方を悪者にしようと下に見せようと奮闘して動いていたと言われ始めたのだ。

婚約する前から綿密に仕掛けられたことのようにまでされたのだ。まるで、そうでなければ辻褄が合わないかのようにまで言われるのに大した時間はかからなかった。

子息たちが、それで納得する頃には、令嬢たちも似たような方向を向いていた。


「ヘシュキオス様も、大変よね。自分が標的になるようにするためにずっと、馬鹿なふりをしているなんて」
「中々できないわよね。前からおかしいと思っていたのよ。あそこまでできないなんてあり得ないもの」
「そうよね」
「みんな思っていたことよね。あそこまで、馬鹿なのが素な人間なんかいないものね」


そんな風に話すのは、令嬢たちだけではなかった。ヘシュキオスのことを散々馬鹿にしていた子息たちも、婚約者に合わせて演じていたのだと思うことで、そこまでしていたのかと感心し始めたのだ。婿入りするために策を巡らせていたのだとして、それをずっと演じ続けていることも高く評価していた。

令嬢たちまでもが、それに納得したように話すから、その話題に乗り遅れまいとした人たちばかりとなった。それが真実かなんて、彼らにはどうでもよかったようだ。嘘であろうとも、自分たちには何の迷惑にもならないと思ったのかも知れない。


「まさか、エウフェシア嬢と婚約するために敢えて自分を偽っていたとはな」
「おかしいと思っていたんだ。あいつの兄貴が、あんなにできるのに。全くできないふりをしていたんだな」
「あそこまで、できなさ過ぎる演技なんてそうそうできないよな」


できなさ過ぎるのが素ではあり得ないとばかりにヘシュキオスの友人たちは口々に話していた。


「中々できないだろ。散々馬鹿にされてきたんだし」
「なんだかんだ言っても、エウフェシア嬢は公爵家のご令嬢だからな。侯爵家の次男としては、そこまでの価値があるんだろ」
「そこまでするくらいだ。跡継ぎが、最悪でも婿入りする子息ができる奴なら、公爵家も安泰だよな」
「そうでなければ、公爵家に婿入りさせるらずがない」


それが、本当のことならよかったのだが、そんな奮闘をしているような人ではなかった。周りは盛大な勘違いをしていたが、素でエウフェシアよりできない人がいることを認めたくなかったのもあったようだ。

それなのにあまりにもできなさ過ぎるせいで、周りはそこまでなはずがないといつの間にか思ったようだ。何かにつけてできが悪いのは、この世界では、いつもいつでもエウフェシアのままとなっていてほしいかのようなところも見え隠れしていた。

そうしているうちにアルテミシアが、いつの間にやら妹を庇い続けることをしていて、王太子までもエウフェシアのことでフォローするようになっていた。

ヘシュキオスは、そんな2人のようなフォローなどできる人ではなかった。彼自身が長年、実の兄や両親にフォローされていることにすら気づかないような子息だったこともあり、エウフェシアのことをフォローするなんてしようと思ってもできるような人ではなかった。


(お姉様だけでなくて、王太子にまでフォローされるなんて駄目なんてことじゃ済まされないわ。婚約したのだから、ヘシュキオスにそんなことさせられないと思っていたけれど、何だか盛大な勘違いが起こっているようだし……。なにはともあれ、私がもっともっと頑張らなきゃ駄目ってことなのは同じってことよね。今まで以上に頑張るなんて、私にできるのかしら?)


いつの間にかエウフェシアは、自分だけが標的にされていることの不自然さに疑問もなかったわけではないが、ただ不出来すぎる自分が悪いとエウフェシアは思い続けた。

姉やその婚約者である王太子の手を煩わせているのだ。申し訳ないと思わないわけがない。

その代わりのように婚約者に頑張れと言うこともエウフェシアはしなかった。婚約してから、フォローをエウフェシアがしてもそれに気づかないような子息だ。期待なんて持てるわけがなかった。


「エウフェシア。何してるんだ?」
「いえ、何も」


フォローを必死にしているというのにそんなことをそんなことを言われたのは、一度や二度ではない。そんなヘシュキオスに呆れるしかなかった。


(私よりも、残念な人って、あぁいう人のことを言うのでしょうね。婚約者にまでひた隠しにして、わざとしているのだとしたら恐れ入るわ。でも、素なのよね。あれは)


完璧すぎるアルテミシアのようになるのは、誰にも無理だとみんながわかっている。血の繋がりだけで、同じようになれるはずもないのに残念なように言われるのは、いつもエウフェシア。

それが、アルテミシアの妹として生まれたエウフェシアの宿命のようにすらなっていた。アルテミシアを悪く言えない代わりに妹を馬鹿にして憂さ晴らしをしているようにも見えてならなかった。

それすら、エウフェシアは慣れてしまうのが早かった。元々、慣れざる終えない環境で生きていたエウフェシアは、贖うことをしようとしなかった。

他の誰かによって、姉かま悪く言われることに繋がることより、妹だからと言う理由でエウフェシアだけが標的になって言われ続ける方が、マシだと思っていた。

それが、姉妹というものであるのかのような錯覚すら覚えていた。この先、それが続いたとしても、これまでのように言われ続けるだけで終わると思っていたのも大きかった。

でも、それで済まなくなる未来が訪れることになるとは思いもしなかった。


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