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しおりを挟む(似合わないのなんて、よくわかってるわよ。お姉様だから似合うものを私でなくとも、誰も似合うわけがない。そんなこと、みんなだってわかってるはずなのに。誰より私が似合わないかのようにあざ笑うのよね。私より、似合わない人だっているのに。いつも、いつも、私が一番下。公爵家の娘なのにどうして、こんな扱われ方をされてなきゃならないのよ)
エウフェシアは、それが聞こえるたび、そう言い返したくなっていたが、それをしたことはなかった。そんなことをしたら、余計に姉に迷惑をかけてしまうと思うことで、躊躇っていたところもあった。
よくよく考えれば、エウフェシアの姉のアルテミシアもそれなりにセンスがあるのだから、妹がそういう服装が似合うわけがないことくらいお見通しのはずだが、それを姉妹だからと同じものを着て欲しがるのだ。似合う似合わないでなくて、姉は妹とお揃いにしたいがためにしているのだとエウフェシアは思っていた。
(それもこれも、お姉様の妹だからなのよね。お姉様の唯一のわがままみたいなものよね。他のことでは、私はお姉様の役に立てることなんてできていないんだし、服を着るくらいなら耐えればいいだけだものね)
それこそ、似合わないとわかっていて、無理強いして着せるような人ではないとエウフェシアは思っていた。心優しき姉がそんなことをするはずがないのだと本気で思っていた。
だから、そこを疑うようなことを思うことはしなかった。周りは、アルテミシアが姉妹だからとお揃いにしているというよりも、姉のようになりたがっているエウフェシアがわざわざ用意させて着ているものと見ていた。そんなこと姉妹で話したことはなかった。少なくとも、エウフェシアが自分で用意している話をしたこともなかったし、似合うと思って着ていると話したこともなかった。
それなのにエウフェシアばかりが笑われて、悪口や嫌味を言われているのだ。
(どうして、私だけがここまで言われなきゃならないんだか)
アルテミシアは、それをお揃いにしたがっているのは自分なのだと話しているのも、エウフェシアは見かけたことがあった。
するとその話を聞いた令嬢たちは、こんな話を始めたのだ。
「妹を必死になって庇っているのを見てられないわ」
「本当にそうよね。いつまで、アルテミシア様にそんなことさせているつもりなのかしらね」
そんな話がエウフェシアの耳に届くのも、いつものことだった。
そのたび、エウフェシアは……。
(何をしても私が悪いことになる。必死になればなるほど、私が何もしていないかのように認めてくれずにこけおろされる。まるで、私を標的にしていれば自分たちが話題にならずに済むみたいな必死さを感じずにはいられないわね。でも、そんな標的にされ続ける私の気持ちに誰も気づいてくれない。最低な人たちばかりだわ。そんな人しかいないのにどこが、素敵な国なのかしらね)
そんなことが、いつの間にか当たり前となっていた。ギリギリ頑張って普通のところにいるエウフェシアの頑張りなんて、周りから見たら頑張っているように全く見えなかったようだ。誰も彼もが、アルテミシアを基準にして妹であるエウフェシアを見ていた。自分たちは、血の繋がりが欠片もないが、血の繋がりがあるというだけで、エウフェシアは比べられて当然のようにされていた。
特に事細かく比べていたのが、姉妹の両親だ。アルテミシアが、これくらいの時には、あーだこーだと両親は常に姉と妹を比べては、エウフェシアに何でそんなこともできないのだと話すのが、いつものことだった。
褒める言葉など、〇〇はかけられたことは一度もなかった。口を開けば……。
「もっと頑張りなさい」
それは、いつも言われている言葉だった。
「姉のようになれとは言わない。無理なのはよくわかってる。せめて、姉や私たちに恥を欠かせるようなことはやめてくれ」
まるで、公爵家の唯一の汚点がエウフェシアのように言うまでになるのに大した時間はかからなかった。
それを聞くのにエウフェシアはすっかり慣れてしまうのも早かった。いや、慣れたくはないがその通りだと思っていたのもあり、そういうことしか言われないのだ。
他の話題なんて、両親にはなかった。とにかく、末娘は恥をかかせる人物だと思っているようで、褒められた記憶は一つもなかった。
(同じことばっかり。ただ、お姉様の唯一の妹というだけで、他にやることがないのかしらね。比べ続けて、何が楽しんだか。比べられ続けている私の気持ちなんて、欠片も心配どころか、わかってもくれてすらいない。本当に残念な親がいたものだ)
そんな時に姉が側に居る時は必ず、アルテミシアこう言った。
「お父様とお母様の言うことなんて気にしないでいいのよ。あなたが、いつも物凄く頑張っているのを私は知っているもの」
「お姉様」
「他の誰より、私が一番わかっているわ」
両親の居ない時にエウフェシアを励ましてくれるのは、アルテミシアだった。周りも、両親のようなことしか言わない人たちばかりの中で、姉だけが唯一の味方だとずっとエウフェシアは思っていた。唯一の味方で、心強い姉。
両親が居る時は、喧嘩したくないのか。オロオロした顔をしていて、止めるなんてことをしたことがなかった。ようよく考えれば、完璧な令嬢と言われているのだから、両親が居る時にも構わずにエウフェシアに話しかけても良さげだが、タイミングよくずらしていることにも、この時は気づいていなかった。
そうしていることに理由があったことを思い知るまで、まだまだ時間はあった。
この時も、両親がいない時に励ましてくれた。
「あなたは、凄く頑張っている。流石は、私の妹だわ」
「……」
「誰に何を言われても気にしなくていいのよ。気にする必要もない」
そうは言ってくれるからこそ、姉の足手まといにだけはなるまいと必死になった。姉にまで失望されたくなくて、頑張っていた。
自分のためだけに頑張ることに疲れてしまっていたことも大きかった。
(気にしないなんて無理よ。もっと、頑張らなきゃ。求められていることをやらなきゃ。やらなきゃ、ずっと言われ続ける。もう、同じことばかり言わるのにはうんざりだわ)
頑張って、頑張って、普通以上になれるように何事も血の滲むような努力を惜しむことはなかった。頑張り続ければ、報われると思っていた。努力した分、報われると本気で思っていた。
何より、自分のせいで色々と姉が言われることになるのだけは我慢ならなかったことが大きかった。
(お姉様まで、私のせいで馬鹿にされるなんて耐えられない。それを見るのは、物凄く嫌。言葉で言い表せないほどだわ。私が、とにかく頑張って認められればいいのよ。お姉様のためにも、それが一番なのだから)
そう、全てはそのためだけに〇〇は頑張っていた。
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