70 / 70
70
しおりを挟むリュシエンヌの生みの親たちが、田舎にひっそりと引っ込んだのは、まだマシだったかも知れない。
あの花のおかげで潤っていたジスカールは、その花が咲かなくなってしまったことで、楽して儲けていた面々が急に花を咲かせようと躍起になり始めたのだ。
それこそ、雑草の中の雑草だと馬鹿にし続けていて、世界で一番美しい花という他国を馬鹿にしていたことが嘘のように自分たちの方が、その花を誰よりも、どの国よりも美しい花だと思っていたかのようにしたのだ。
だが、そんなことをしたところで、花は咲くことはなかった。元より、そんなこと本心では思っていないことは明らかだったこともあり、そんなことをしてまで楽がしたいのかと呆れられることになるだけだった。
そんなことで咲くことはなかった。それによって、あの国から別の国に行くことにした者が増えることになったのだ。
そのため、規制されることになってヴィルベルトが留学し終えてからは、あの国に行くことをわざわざする者もいなくなり、国外に行きたがる面々を出さないために必死になっているようだ。
あの花を売り買いして儲けていたことが腹立たしく思えたが、そのおかげで花のことを知れたのだからとヴィルベルトは思っていた。
それこそ、初めてあの花の存在を知ったのは、まだ幼い頃だった。
父親のスケッチした花を見て、彼女だと思った途端、高熱を出して生死の境をさまようことになったのだ。
それは、ある種の呪いのようなものだったようだ。生まれ変わっても、ヴィルベルトたちを巡り合わせることなく、前世のようにしようと目論む色々な想いをなし得ていたのだろう。
何はともあれ、リュシエンヌに散々なことをした面々が二度と彼女に会わないで、どこでどんな目にあおうともヴィルベルトは気にしなかった。
リュシエンヌは、願ってやまない幸せが誰かに邪魔されない限りは、それでいいと思っていた。
それこそ、願わくば来世も彼女と添い遂げたいと思っていて、そのために必要なことは徳でも積むことだと密かに思い始めていたが、それをリュシエンヌに気づかれることはなかった。
ちなみにお互いの瞳の色が入れ替わったことで、お互いの好きな色が変化した。
どちらも、青と緑が好きな色となり、どこで見かけても、お揃いの物を身にまとうか。持っている姿を目撃されて、いつまで経っても仲の良い夫婦だと言われ続けることになって、リュシエンヌがにこにこと幸せそうにするのを見ていられるだけで、ヴィルベルトはその幸せが永遠に続くことを願ってやまなかった。
「リュシエンヌ」
「はい」
「願わくば、来世も、来々世も、私の隣にいてほしい」
「ふふっ、結婚式では一生しか誓えませんものね。私でよければ、あなたの隣に居続けさせてほしいです」
結婚式を明日に控えていた時にヴィルベルトは、そんなことをリュシエンヌに言った。それにリュシエンヌは、そう答えてくれたことで、ヴィルベルトは蕩けるような笑顔をリュシエンヌに向けていた。
そんな顔を他の人に見られていたら、ごちそうさまと言われていたことだろう。
こうして、二人はネーデルでは誰も知らないほどのおしどり夫婦となって、あの花の話がなされた時にこの二人の話がされることになった。
それがいつしか、古い古い文献に残されることになる頃には、二人はまたあの花を目印にして、どこかの国で生まれ変わっていることだろう。
67
お気に入りに追加
268
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

逆行令嬢の反撃~これから妹達に陥れられると知っているので、安全な自分の部屋に籠りつつ逆行前のお返しを行います~
柚木ゆず
恋愛
妹ソフィ―、継母アンナ、婚約者シリルの3人に陥れられ、極刑を宣告されてしまった子爵家令嬢・セリア。
そんな彼女は執行前夜泣き疲れて眠り、次の日起きると――そこは、牢屋ではなく自分の部屋。セリアは3人の罠にはまってしまうその日に、戻っていたのでした。
こんな人達の思い通りにはさせないし、許せない。
逆行して3人の本心と企みを知っているセリアは、反撃を決意。そうとは知らない妹たち3人は、セリアに翻弄されてゆくことになるのでした――。
※体調不良の影響で現在感想欄は閉じさせていただいております。
※こちらは3年前に投稿させていただいたお話の改稿版(文章をすべて書き直し、ストーリーの一部を変更したもの)となっております。
1月29日追加。後日ざまぁの部分にストーリーを追加させていただきます。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

偽りの愛に終止符を
甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる