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しおりを挟むバルテレミーが留年するようなのと婚約していたくないと言い出したのも、すぐのことだった。
「は? そっちが、格下のくせに何言ってるの?」
「格下だが、これ以上、お前のせいで恥をかきたくない。大体、贈った物を着ないで、変な格好ばかりするな。滑稽にもほどがあるぞ」
「なっ、何てことを言うのよ! みんな、お姉ちゃんより似合っていると言ってくれていたのよ!」
「は? まさか、リュシエンヌに着せられていたんじゃなくて、前から似合っていると勘違いして、着ていたのか? 嘘だろ」
バルテレミーは、ようやくナディーヌがどういう令嬢なのかを知ることになったようだ。
「妹の気が変になったのも、温厚な弟が怒鳴ったのも、お前のせいだったんだな。何てことだ。こんなのの方がリュシエンヌより、マシだなんて思っていたなんて……」
「はぁ!? それは、こっちの台詞よ!」
ナディーヌは、姉のことを言われて腹を立てていた。姉と比べられることが許せなくて仕方がなかったのだ。
婚約破棄になったことに両方の両親は、何とも言えない顔をしていた。
伯爵家の面々は、段々とナディーヌの酷さに頭を抱えたくなっていた。どうして、この娘の方を何かと甘やかして、溺愛してきたのかすらわからなくなっていた。
子爵家の方は、バルテレミーが破棄すると決めたことだと一線を引いたままだった。
「お前に跡を継がせる気はない。これまで通りに弟が子爵家を継ぐ。お前は婿入り先を探せ」
「……わかっています」
「全く、どうして、あんなのと婚約したいなんて思ったのよ。どう見ても、ハズレじゃない」
「っ、」
「やめろ。もう、済んだこと」
息子に辛辣なことを言った母親を諌めたのは、父親だった。
もっとも、このあと、婿入り先を見つけられなかったバルテレミーは弟の邪魔をしたくないと勘当してもらうことにして家を出てから、苦労することになったが、自分が判断を誤ったのだと思って、愚痴ることも、不平不満を言うこともなかったようだ。
そんな彼を平民の娘が一目惚れしたらしく、その家に婿入りしてから努力を惜しむことなく、必死になって頑張り続けたことで、義両親にも認められるようになり、ささやかながらも彼にしては素晴らしく幸せな人生を送ることになったようだ。
それもこれも、ナディーヌが色とやらかしてくれたおかげとリュシエンヌがずっと支えてくれていたことに気づかなかったせいだと感謝と反省を忘れることなく、前向きに生きたことがよかったようだ。
だが、リュシエンヌがそんなことになっていることを知ることはなかった。そんな風に感謝してくれていることも知らず、それどころか。元婚約者のことなど、すっかり忘れていくことになるとは、バルテレミーも思っていなかっただろう。
彼としては、あそこまで尽くしてくれていたのだから、好かれていたのを気づかずに無下にしてしまったと思っていたが、好きになる要素が見当たらないと思われていたことも、一生気づくこともなかったのは、ある意味、物凄く幸せだったのかも知れない。
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