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しおりを挟むリュシエンヌは、そんなやり取りをアリーとエリーセがしていることも知らずにいた。
そして、その頃のジスカールの育ての両親や血の繋がった妹が、どうなったかを知らずにいた。
ナディーヌは、婚約者のバルテレミーと出かけている間に家に戻ると両親が見たことないほど、笑顔でいることに不思議そうにした。
「どうしたの?」
「ナディーヌ。もう、姉の心配をしなくてもよくなったぞ」
「え?」
「親戚の家に養子になって、隣国に行ったのよ。もう二度と会うこともないわ」
ナディーヌは、いつの間にか姉が家を出て行ったことに驚きつつ、眉を顰めていた。
「隣国って、どこなの?」
「さぁ、どこだったかな」
「何、それ」
「まぁ、いいじゃないの」
「爵位は?」
「あー、子爵だったか?」
「男爵とかでは? 身なりからしても、伯爵家より下に見えましたよ。それにこちらが強気で言っても、怒鳴りも反論もしていませんでしたし、私たちより下で間違いないわ」
「ふ~ん。なら、いいや」
ナディーヌは、自分よりも姉が上になったのだとしたら暴れていたが、大したことないところに養子になったと知って、つまらなそうにするだけだった。
もう、リュシエンヌをいびり倒せないのだ。だが、婚約者も奪えた今、何をしても喜怒哀楽のなくなった姉を玩具にしてもつまらなくなっていたこともあり、新しく別のものでも構うことにした。
その標的が、バルテレミーの弟妹たちになったのは、すぐだった。
弟妹たちは、リュシエンヌに懐いていてナディーヌのことを前々から嫌っているのがわかっていて、ナディーヌはそんな二人が思うようにならないことに何かしてやりたくてうずうずしていたのだ。
何度となく、弟妹たちで遊ぶうちに婚約者から、こんなことを言われることになったのだ。
「ナディーヌ。私の弟妹に構わないでいい」
「でも、義理の姉になるのだもの。仲良くしたいわ」
「別にわざわざ仲良くならなくてもいい。私の実家でも、格下の家とわざわざつるむことはない」
「……」
バルテレミーの言葉によると、ナディーヌは、伯爵家より彼の家は下の子爵家なのだ。言われて、確かにそうだと思ったが、遊ぶのに丁度いいことから無視してリュシエンヌにしていたような意地悪をし続けた。
すると妹の方は心を病んでしまい、弟はナディーヌに怒鳴り散らしたのだ。
「いい加減にしてくれ! もう、構うな。こっちの気が変になる」
「何よ。そこまで言うことないでしょ」
「大体、あなたの話すことは、リュシエンヌ姉様の悪口ばかりじゃないか。自分より、格上の家の養子になったからって、八つ当たりをしないでくれ」
「は? 何、言ってるの? あの人は、伯爵家より下のところに養子になったのよ」
「何も知らないんだ。そういえば、学園の成績からしても、相当な馬鹿だったものな」
馬鹿にされたことに頭にきたナディーヌは、平手打ちをしてしまい、そこに彼の両親やバルテレミーがやって来てしまったのだ。
「何をしてるんだ!」
「っ、その子がいけないのよ!」
「リュシエンヌ姉様が、格上の養子になったことを話したら叩かれた」
「だから、格下だって言ってるでしょ!」
「何を言ってるんだ? リュシエンヌ嬢なら、公爵家の養子になっただろ」
「え?」
「そうよ。そんなことで、私の息子をぶつなんて信じられないわ。娘も、あなたのせいで気をおかしくしているのよ。同じようなことをしていたんでしょ!」
バルテレミーの両親の言葉にナディーヌだけでなくて、バルテレミーも驚いた顔をしていた。
「は? リュシエンヌが、公爵家の養子?」
「お前も知らなかったのか」
驚く息子に父親は何とも言えない顔をしていた。
そんなことがあってから、ナディーヌはバルテレミーの家に行くことを拒まれるようになった。それでも、バルテレミーが婿入りするのだからと大事にしないようにしたが、結婚したらバルテレミーは実家だからと当てにするなと釘をさされることになった。
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