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しおりを挟む出禁となった生徒たちは、次の日にリュシエンヌに殿下のことを聞こうとして近づいて来たが、昨日の今日で迷惑なことをしておいて、図書館を出禁になった生徒として有名になっているようで、他の生徒たちに小馬鹿にされたのは、すぐだった。
「図書館で騒ぎを起こして、出禁になったそうね」
「っ、」
「出禁? 一体何をなさったの?」
すかさず知らないと言わんばかりにその話にくいついた令嬢によって、昨日何をして騒ぎを起こしたかがあらわになることになり、出禁となった生徒たちは顔を赤くしていた。
リュシエンヌは、それを黙って見ていた。
「信じられないわ。しかも、司書に暴言まで吐いたそうじゃない。あの方が、どなたかご存じで言ったのよね?」
「司書ごときに暴言なんて言い過ぎよ」
「司書ごとき?」
どうやら、司書は国王陛下の実の妹だったようだ。それを知らなかった令嬢たちは、それを聞いて顔色を赤から青くさせていた。
その中にリュシエンヌもいた。赤くはなっていないし、青くもなってはいなかったが、国王陛下の妹君だと知らなかったのだ。
だが、騒ぎを起こして出禁になった令嬢たちのようにくってかかることも、暴言も吐いてはいないが、失礼がなかったかと焦ってしまったのは事実だ。
それこそ、殿下に色々と言えるのも、身分を知ったリュシエンヌは妙に納得してしまった。
自分のこれまでを振り返っている間にリュシエンヌに聞こうと詰め寄っていた令嬢たちはいなくなっていた。
彼女たちは、殿下のことを追いかけ回すどころではなくなっていたのだが、リュシエンヌもそれに付き合うほどの余裕もなかった。
「全く、図書館で騒ぐだけはあるわね」
「知らなかったなんて、そちらに驚くわ」
「リュシエンヌ様? 大丈夫?」
「えぇ、少しびっくりしてしまっただけよ」
あの令嬢たちの無礼な態度に驚いているのだと周りは勘違いしたようだ。リュシエンヌも、司書の素性をさっき知ったなんてことに誰も気づいていないことは、いいことなのか、そうでないのかがわからないまま、騒がしい面々はリュシエンヌに近づくことがなくなり、それどころか肩身の狭い学園生活を送る様になったようで、ひそひそと悪く言う声やら馬鹿にする声をリュシエンヌは耳にするたびにげんなりしてしまった。
確かに褒められることはしていない。だが、こんな風にあからさまに馬鹿にする必要があるのだろうか?
リュシエンヌは、それ見たことかと馬鹿にする面々とも、距離を置くようになった。
図書館で、リュシエンヌが彼に会うことも難しくなっていた。もっとも、近寄らないようになったのは、難しいとは建前でどんな顔をして会えばいいのかがわからなくなってしまって、足が遠退いてしまっただけなのだが、どうにもアリーが殿下だとバレた時に面白がっている顔をしていたことが、リュシエンヌには引っかかってならなかったのだ。
顔を見れないまま、言葉を交わせない日々が続く間、リュシエンヌは借りた図鑑を部屋で眺めている時間が増えることになった。
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