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しおりを挟むリュシエンヌは、何とも言えない気持ちで、アリーが見せてくれた図鑑を見下ろしていた。
あれほど思い出したいと思っていたことなのに思い出してみたら、あの子に嫌われるようなことをしたのが、自分だったかも知れないとわかったのだ。
子供だったとはいえ、リュシエンヌは知らずにとんでもないことをしてしまったのだと思って、反省するばかりだった。
「よかったら、その図鑑、君にあげるよ」
「え? でも、図書館にもないほど貴重な本なのですよね?」
アリーには、リュシエンヌが熱心に見ていることに思うところがあったようだ。
まさか、過去にしたことを思い出してリュシエンヌが、悔いているとは思ってもいなかったのだろう。
リュシエンヌは懐かしさに泣きそうになったのではない。自責の念にかられて泣き出したくなっていたのだが、アリーには伝わらなかったようだ。
それに隣にいるのに彼は、リュシエンヌを通して何かを見ているような時が、度々あった。リュシエンヌではない何かを見る目にリュシエンヌは、かつて自分もそうだったことを思い出してもいた。
「そうだな。その花の美しさに魅了されて、色んな国が栽培を試みたせいで、その図鑑すら貴重になったが」
「なら、なおさら貰うなんてできません」
「そうか。そうだな。私が貸しているという方が安全かも知れないな。その本で、何か言われた時は、私の名前を出すといい」
「あなたの名前を……?」
リュシエンヌは、不思議そうな顔をした。アリーの名前しか知らないのだ。ファミリーネームを聞いていないのだ。
そんな時に学習室の外から、アリーを呼ぶ声がかけられた。
「殿下。人が来ます」
「おい」
「へ? 殿下??」
「あ、いえ、すみません!」
声をかけた生徒は、しまったという顔をしていたが、慌てた声を出したことで、司書にゴホンと咳払いをされた。
「図書館ではお静かに願います」
「そうだぞ。静かにしろ。また、裏口を使わせてくれ」
「そんな断りは無用です。ここで、騒がれるよりましですから。いつでもご自由にお使いください」
「助かる。リュシエンヌ嬢、すまない。失礼する」
そんな言い方をされるアリーは苦笑していたが、呼びに来た男子生徒は司書の言葉に眉を顰めていた。
リュシエンヌは、殿下と言う言葉にびっくりしたままで、頭を下げるのが精一杯だった。
そんな表情を見たことにアリーは、面白そうにしているように見えたのは、きっとリュシエンヌの気の所為ではないだろう。
だが、リュシエンヌは面白がられることに何とも言えない顔をしていた。それは、あまり気持ちのよいものではなかった。
かつて、ジスカールでそんな顔をしている者をリュシエンヌは見てきた。その顔を見てから、リュシエンヌの中でアリーへの気持ちが恋心になることはなかった。
ただ、彼が想う人に似ている気がするだけにとどまることになるきっかけとなるとは、誰も予想だにしなかっただろう。
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