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しおりを挟むリュシエンヌが、よく笑うようになってから、気遣っていた周りも変化することになった。
「リュシエンヌ様が、笑っておられるのを見ると心がポカポカしますわ」
「え?」
「私も、そう思っていたわ」
「……」
「やはり、美しい方が幸せそうにしていると違うわよね」
美しい人という言葉にリュシエンヌは微妙な顔をした。リュシエンヌには、自分が美人だという自覚が未だに全くないのだ。
誤解が生まれているのだが、リュシエンヌは美人だと言われるとその微笑みが曇ることがわかってから、その手の話題がのぼることが避けられるようになった。
「きっと、散々なまでに生まれた国で言われて嫌な思いをしたんだろう」
「それか、元婚約者のように美人の基準がそもそも違うと思いこんで、刷り込まれてしまったのかも知れないな」
「そうかも知れないな。あの美しい花のことすら、あの国の人たちは雑草の中の雑草と揶揄していたそうだ。それと大差ないかのようにしているようだしな」
雑草の中の雑草と聞いて、眉を顰める者は多かった。その花を見たことがある者たちには信じられないことだった。あまりにも邪な者が、その花さえ手にすれば幸せになれると思って、売り買いしてばかりいたことで、おかしくなり始めたようだ。
「そういえば、最近、その花が咲かなくなっていると聞いたが」
「え? そうなのか?」
エーヴァウトは、友人たちの子息のその言葉に驚いた声をあげた。
「ここ、数年で激減していると聞くぞ」
「激減」
「お前の婚約者は、その花、見たさに留学したんだっけな」
「あぁ、まぁ、あの国に留学する生徒はそれが理由なのが殆どだろ」
「そうだが、それが殆どいないのは行ったところで、見る機会が殆どないってことに気づいてないとはな」
「……」
エーヴァウトは、向こうに行った婚約者が荒ぶっているのを簡単に想像できて苦笑してしまった。
それこそ、その間にエーヴァウトの義妹が増えて、その令嬢が物凄く美しいのだ。花をわざわざ愛でに行かずに残っていれば、リュシエンヌと一緒にいられたのだ。
タイミングの悪すぎることに何とも言えない顔をしていた。それこそ、婚約者がしたくて、エーヴァウトはそうしたと言われて、明日から留学すると軽く言われたのだ。
そんなことをサラッと言う婚約者にこちらで起こっている手紙も大したことはなさそうだからいらないと言われたのも、エーヴァウトだ。
そのため、律儀にリュシエンヌのことがあっても手紙を出してはいなかった。だが、その知らせをしなかったと婚約者がエーヴァウトに色々言って来そうなのは目に見えていた。
まぁ、エーヴァウトが何をしても、しなくとも婚約者の令嬢は好き勝手に怒って笑っているのだ。それでも、婚約したままなのは、そんな彼女に惚れてしまっているに他ならなかった。
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