53 / 70
53
しおりを挟む「リュシエンヌ。最近、楽しそうね」
「そう、ですか?」
「そう見えるわ」
養母だけでなく、コルネリアも一緒になって、毎日とても楽しそうにしていると言われて、リュシエンヌは自然と微笑んだ。
その微笑みに同性なはずの養母と義姉は、ドキリとするものがあった。
「「っ、」」
「なら、お養母様やお義姉様たちが、気遣ってくれているからです。ありがとうございます」
リュシエンヌは心からそう思って深々と頭を下げた。
「っ、そんなお礼なんていいのよ! 頭を上げてちょうだい」
「そうよ! リュシエンヌは、私の大事な義妹だもの。当たり前のことよ。遠慮なんかしなくていいのよ。私たちは家族なんだもの」
「そうよ。存分に甘えてちょうだい」
コルネリアや養母が、リュシエンヌをギュッと抱きしめているところに養父とエーヴァウトがやってきて、何事だと思いながらも、楽しそうにしている女性陣を羨んだ。
「リュシエンヌ。私とも、ハグしよう!」
「はい!」
養父に言われて、リュシエンヌはとてもいい返事をして抱きついたが、それをエーヴァウトもやろうとしたのだが……。
そんな兄の前に立ちはだかったのは、彼の妹だった。
「お兄様は、駄目よ」
「は? 何でだよ!?」
「そうね。エーヴァウトは、駄目ね」
「お前には、婚約者がいるだろ。そっちに抱きつけばいい」
「っ!?」
「え? 婚約者がいるんですか?」
リュシエンヌが、義兄に婚約者がいることに驚きつつ、紹介されていないことに悲しげな顔をした。
その顔を見て、エーヴァウトは慌てふためいた。
「あ、いや、その、婚約してるが、婚約者は留学中なんだ。だから、紹介できたいないだけであって、決してリュシエンヌに紹介しないでやり過ごそうとしていたわけではないからな」
「留学中なんですか?」
エーヴァウトが、必死になって弁明しているのを見て、コルネリアが可哀想になったのか。珍しくフォローしてくれた。
「丁度、入れ違いにジスカールに留学しに行ってしまったのよ」
「あの国に?」
リュシエンヌは、留学するほどの何かが、あの国にあっただろうかと首を傾げたくなっていた。この国の学園の方が授業の質は上だ。留学してまで、何を学びたいというのか。
リュシエンヌには理解できなかった。怪訝な顔をしていたのを見て、コルネリアは付け加えるように言った。
「エーヴァウトの婚約者は、花を見たくて行ったのよ」
「え? お花ですか?」
リュシエンヌは、留学の理由が、ジスカールで花を見たいがためと言うのにきょとんとしてしまった。
「ジスカールでしか見れない花よ」
「っ、」
その言葉にリュシエンヌは、デジャヴを感じてしまった。
そういえば、昔、そんなことを言っていたのを見聞きしていた気がする。
そう、毎日飽きもせず、その花を愛でていた。そこで、あの子と……。
「リュシエンヌ?」
「どうかしたか?」
「いえ、お義兄様の婚約者の方とお会いするのが楽しみだと思って」
「そうね。リュシエンヌとなら、すぐに仲良くなれるんじゃないかしらね。あの子、美しいものが大好きだから」
「エーヴァウトよりも、リュシエンヌに夢中になりそうね」
「え?」
「……そこが、問題なんだよ」
エーヴァウトが、ありえそうだと頭を抱える姿にリュシエンヌは、おろおろしてしまったが、ほっといていいと言われて食卓に移動した。
しばらくして置いて行かれたことに気づいてエーヴァウトがプンスカしながらやって来た頃には、夕食を取っているところだった。
「いつまでも、グダグダ言っている。さっさと座って夕食にしろ」
「っ、はい」
エーヴァウトは父親にそう言われて、しょげながら座って夕食を食べ始めた。
コルネリアは揶揄して笑っていたが、食事中だと叱られて、今度はコルネリアが謝罪してしょぼくれるとそれをエーヴァウトが揶揄して……そんな繰り返しをする食事にリュシエンヌは、ほのぼのしてにこにことしていた。
リュシエンヌが、にこにことしているのに気づいて家族のみならず、執事や使用人たちも、リュシエンヌを見て驚いていたがとても幸せそうな笑顔に言い争う声も消え失せて、笑い声が溢れるようになった。
48
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません
Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。
家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに
“お飾りの妻が必要だ”
という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。
ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。
そんなミルフィの嫁ぎ先は、
社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。
……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。
更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない!
そんな覚悟で嫁いだのに、
旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───……
一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~
吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。
ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。
幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。
仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。
精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。
ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。
侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。
当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!?
本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。
+番外編があります。
11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。
11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください
今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。
しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。
ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。
しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。
最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。
一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜
珠宮さくら
恋愛
ファバン大国の皇女として生まれた娘がいた。
1人は生まれる前から期待され、生まれた後も皇女として周りの思惑の中で過ごすことになり、もう1人は皇女として認められることなく、街で暮らしていた。
彼女たちの運命は、生まれる前から人々の祈りと感謝と願いによって縛られていたが、彼らの願いよりも、もっと強い願いをかけていたのは、その2人の皇女たちだった。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話
彩伊
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。
しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。
彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。
............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。
招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。
送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。
そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。
『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』
一日一話
14話完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる