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しおりを挟むリュシエンヌが、名前を反芻して嬉しそうにすることにアリーは、不思議そうにした。まさか、自分の名前で懐かしがっているとわかっていたら、別のことを口にしていただろうが、彼はそこには行き着くことがなかった。
「どうかしたか?」
「いえ、あ、私は、リュシエンヌ・ジュルベルクと言います」
リュシエンヌは名乗っていなかったことを思い出して、慌ててそう言って頭を下げた。彼もまたリュシエンヌがしたように名前を反芻していたが、そんなやり取りをしている時だった。
すぐ近くで気配もなく、いつの間にやら人が立っていたのだ。
「ごほん」
「「っ!?」」
リュシエンヌは、そちらを見て、びっくりして目を見開いて、胸を抑えていた。心臓が口から飛び出そうなほど驚いていた。
アリーも、同じようにしていた。それだけ、気配を感じなかったのだ。
「図書館ですので、お静かに。勉強のお話でしたら、学習室の方でお話してください」
司書にそう言われて、リュシエンヌたちは慌てて頷いて、学習室の空いているところに入った。入ったところで、扉は閉めきれない。密室に婚約者でもないのに閉じこもるわけにはいかないのだ。あらぬ誤解をもたれてしまう。
そこで、二人は顔を見合わせて面白くなってしまい笑ってしまったが……。
「ごほん。学習室でも、大きな声を出すのは控えてください。意外と響くものですよ。気をつけてください」
「「っ、!?」」
笑い声が聞こえたらしく、また注意を受けてしまったが、リュシエンヌたちはおかしくて仕方がなくなっていて、笑うのを堪えるのが大変だった。
「はぁ、笑った。久しぶりだ」
「私も、久しぶりに笑いました。……いつ振りかしら」
リュシエンヌは、笑いすぎて涙すら出ていた。泣いたのは思い出せるが、笑い声を我慢するほど、こんなに笑ったのは、いつだったろうか。遠い昔のような気がして、リュシエンヌは思い出せなかった。でも、こうして誰かと笑ったことがあったような……。
「……そんなに笑っていないのか?」
「えぇ、思い出せないくらい昔に笑っていたような気はしますが、何で笑っていたかも思い出せません」
「っ、」
そんなことを言ったリュシエンヌにアリーは、悲痛な顔をしていた。
「?」
「なら、声をかけてよかった。ずっと、その、君に声をかけるタイミングを見計らっていたんだ」
「っ、」
それが同じだったことにリュシエンヌはびっくりしてしまった。
どうやら、お互いが会釈だけで過ごすことから、どうやって脱却するかであれこれ考えていたようだ。
そこから、リュシエンヌたちは図書館の学習室で何かと話すようになっていた。
それこそ、怪しまれないように長時間にならないように配慮しつつ、それでいて有意義な時間を過ごせるようになった。
リュシエンヌにとって、心安らげる時間となっていた。
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