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しおりを挟む留学するはずが、ひょんなことから遠縁の養子となったリュシエンヌ。それまで、存在すら知らなかった人が養父母になってくれ、実の両親と比べられないほどいい人たちで、彼らの息子と娘も、いい人たちだった。
それまで、リュシエンヌの周りにいたことがあったような気がするが、どんな人たちだったかを思い出せてはいなかった。思い出せないほど昔のことなのだろう。
そのため、急に優しい人たちに囲まれることになったリュシエンヌは、自分の心が壊れてしまっている状態なことに気づいていなかったが、少しずつ自分の今の状態がどうなっているのかを理解し始めていた。
もっとも理解しても、変えようとするのは、並々ならぬ努力と変わりたいという強い思いがないと中々変えられるものではなかった。
いくら周りが優しくしてくれていても、そこは本人が強く変わりたいと思って、どう変わりたいかを思わない限りは限界があるようだ。
そんなリュシエンヌが、エーヴァウトやコルネリアたちと同じく通うことになったネーデル国の学園で、リュシエンヌは目立つことなく、ひっそりと勉強に集中していた。もっとも、美人なリュシエンヌが目立たないようにしていると思っているだけで、彼女はどこにいても人目を引かずにはいられなかったが、そんな視線を向けられることには慣れっこになっていて、気づいてはいなかった。
「本当に綺麗な人ね」
「あの国にあんな美しい令嬢がいたなんて思わなかったわ」
「噂になっても良さそうなのにね」
「まぁ、あの花の時も、広めたのは他国の方らしいから、良さがわからないのかも知れないわ」
「そうね」
そんな風に話題にのぼるようになって、チラチラと見られることになっても、リュシエンヌは特に気にしたことがなかった。
そういった視線は、リュシエンヌがジスカールの街を歩いた時にはよくあったことで、それを気にしていたら外を歩けないのだ。そのため、慣れてしまったようだ。
それにリュシエンヌは何かに集中していれば、深く考えなくてもいいせいで、何かと現実逃避をしてばかりいた。そうしてさえいれば、傷つくことがないと思ってのことで、無意識だった。
義理の兄と姉は、二人してリュシエンヌに友達を色々と紹介してくれたりしたが、嫌な思い出しかないリュシエンヌにとって、それもまた試練に他ならなかった。
義理の兄と姉たちにそんなつもりはない。リュシエンヌに友達ができれば、学園でも過ごしやすくなると思ってのことだったが、リュシエンヌの受け取り方は違っていた。
エーヴァウトたちや紹介してくれる面々の機嫌を損ねない程度に応対するだけで、親しくしようとすることはなかったのだ。いや、できなかった。親しくしていたと思っていたが、前のところでは、社交辞令ばかりでそれに浮かれてしまっていたと思っているリュシエンヌは、すっかり疑心暗鬼に陥ってしまっていたのだ。
「本当に美人ね」
「っ、」
「それに羨ましいわ。そのプロポーション」
「同じ人間とは思えない美しさだわ」
それなのに婚約破棄になったリュシエンヌに元婚約者は、全くもって見る目がないと言っていたが、リュシエンヌは何と言っていいのかがわからず、終始困った顔をしていた。
コルネリアの友達の令嬢たちは、コルネリアから散々実の妹や元婚約者に酷い目にあわされていたことを聞いていて、どうにかして仲良くなろうとしていたが、誤解が誤解をうんでしまっているせいで、悲しい顔ばかりのリュシエンヌにお手上げ状態になるのも早かった。
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