47 / 70
47
しおりを挟む留学するはずが、ひょんなことから遠縁の養子となったリュシエンヌ。それまで、存在すら知らなかった人が養父母になってくれ、実の両親と比べられないほどいい人たちで、彼らの息子と娘も、いい人たちだった。
それまで、リュシエンヌの周りにいたことがあったような気がするが、どんな人たちだったかを思い出せてはいなかった。思い出せないほど昔のことなのだろう。
そのため、急に優しい人たちに囲まれることになったリュシエンヌは、自分の心が壊れてしまっている状態なことに気づいていなかったが、少しずつ自分の今の状態がどうなっているのかを理解し始めていた。
もっとも理解しても、変えようとするのは、並々ならぬ努力と変わりたいという強い思いがないと中々変えられるものではなかった。
いくら周りが優しくしてくれていても、そこは本人が強く変わりたいと思って、どう変わりたいかを思わない限りは限界があるようだ。
そんなリュシエンヌが、エーヴァウトやコルネリアたちと同じく通うことになったネーデル国の学園で、リュシエンヌは目立つことなく、ひっそりと勉強に集中していた。もっとも、美人なリュシエンヌが目立たないようにしていると思っているだけで、彼女はどこにいても人目を引かずにはいられなかったが、そんな視線を向けられることには慣れっこになっていて、気づいてはいなかった。
「本当に綺麗な人ね」
「あの国にあんな美しい令嬢がいたなんて思わなかったわ」
「噂になっても良さそうなのにね」
「まぁ、あの花の時も、広めたのは他国の方らしいから、良さがわからないのかも知れないわ」
「そうね」
そんな風に話題にのぼるようになって、チラチラと見られることになっても、リュシエンヌは特に気にしたことがなかった。
そういった視線は、リュシエンヌがジスカールの街を歩いた時にはよくあったことで、それを気にしていたら外を歩けないのだ。そのため、慣れてしまったようだ。
それにリュシエンヌは何かに集中していれば、深く考えなくてもいいせいで、何かと現実逃避をしてばかりいた。そうしてさえいれば、傷つくことがないと思ってのことで、無意識だった。
義理の兄と姉は、二人してリュシエンヌに友達を色々と紹介してくれたりしたが、嫌な思い出しかないリュシエンヌにとって、それもまた試練に他ならなかった。
義理の兄と姉たちにそんなつもりはない。リュシエンヌに友達ができれば、学園でも過ごしやすくなると思ってのことだったが、リュシエンヌの受け取り方は違っていた。
エーヴァウトたちや紹介してくれる面々の機嫌を損ねない程度に応対するだけで、親しくしようとすることはなかったのだ。いや、できなかった。親しくしていたと思っていたが、前のところでは、社交辞令ばかりでそれに浮かれてしまっていたと思っているリュシエンヌは、すっかり疑心暗鬼に陥ってしまっていたのだ。
「本当に美人ね」
「っ、」
「それに羨ましいわ。そのプロポーション」
「同じ人間とは思えない美しさだわ」
それなのに婚約破棄になったリュシエンヌに元婚約者は、全くもって見る目がないと言っていたが、リュシエンヌは何と言っていいのかがわからず、終始困った顔をしていた。
コルネリアの友達の令嬢たちは、コルネリアから散々実の妹や元婚約者に酷い目にあわされていたことを聞いていて、どうにかして仲良くなろうとしていたが、誤解が誤解をうんでしまっているせいで、悲しい顔ばかりのリュシエンヌにお手上げ状態になるのも早かった。
70
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません
Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。
家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに
“お飾りの妻が必要だ”
という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。
ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。
そんなミルフィの嫁ぎ先は、
社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。
……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。
更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない!
そんな覚悟で嫁いだのに、
旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───……
一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~
吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。
ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。
幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。
仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。
精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。
ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。
侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。
当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!?
本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。
+番外編があります。
11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。
11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜
珠宮さくら
恋愛
ファバン大国の皇女として生まれた娘がいた。
1人は生まれる前から期待され、生まれた後も皇女として周りの思惑の中で過ごすことになり、もう1人は皇女として認められることなく、街で暮らしていた。
彼女たちの運命は、生まれる前から人々の祈りと感謝と願いによって縛られていたが、彼らの願いよりも、もっと強い願いをかけていたのは、その2人の皇女たちだった。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話
彩伊
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。
しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。
彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。
............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。
招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。
送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。
そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。
『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』
一日一話
14話完結

氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

完璧すぎる王太子に愛されていると思っていたら、自称聖女が現れて私の人生が狂わされましたが、最愛の人との再会で軌道修正を始めたようです
珠宮さくら
恋愛
テネリアという国に生まれた公爵家の令嬢エウリュディケ・グリーヒェンライトは、全てのものに恵まれていた。
誰もが羨むような環境の中にいながら、見た目も中身も完璧なはずの婚約者の王太子に殺意を抱くほど嫌っていた。その顔をエウリュディケが見ると抑えようもないほどの殺意が沸き起こってしまって仕方がなかったが、それをひた隠しにして、相思相愛に見えるように努力を惜しまなかった。
そんな彼女の癒しであり、ストッパーとなっていたのが、幼なじみだったが彼と離れることになってしまい、そこから殺意を抱く理由や色んなことを知ることになっていっぱいいっぱいの中で、突然自称聖女がテネリアに現れ、それでテネリアの人たちがおかしくなっていく。
エウリュディケは次第に追いつめられていくことになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる