両親や妹に我慢を強いられ、心が疲弊しきっていましたが、前世で結ばれることが叶わなかった運命の人にやっと巡り会えたので幸せです

珠宮さくら

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好きな色が、わからないことにリュシエンヌ以上に聞いているエーヴァウトの方が泣きそうになっていた。これは、買い物を楽しむ以前の問題ではないか。それ以前に彼女は普通とはかけ離れたところで独りぼっちのままだったのだ。

ちっとも笑わないし、楽しそうにもしていないリュシエンヌが、どんな扱われ方をしてきたかを知った気でいたが、理解なんて到底及ばなかったのだ。それを垣間見たようだった。

楽しげにしていた養母と義姉も、リュシエンヌの言葉を耳にして、静まり返っていた。

それを聞いていた商人や使用人たちも、泣きそうになっていた。


「こんなにお美しいのに。随分と虐げられてこられたのですね」
「あの国は、笑顔の方ばかりだと思っていましたが、リュシエンヌ様が笑わなくなられたのもわかるような気がいたします」


商人たちが、リュシエンヌに喜んでもらおうと躍起になる中で、好きな色が何だったかを思い出せずに首を傾げていた。


「……好きな色すら、思い出せないなんて……」


リュシエンヌは、自分がどこかおかしくなっている気がしておかしくなって笑ってしまった。

その顔を見て、そこにいた誰もがいたたまれなくなってしまった。

リュシエンヌが初めて笑っていたが、その顔は痛ましくしか見えなかったのだ。どんなに苦労する人生を歩もうとも、笑顔を絶やさない者はいた。

そんなことをし続けることも困難なところに長らくリュシエンヌは独りぼっちで置き去りにされすぎて、誰も気遣ってはくれないところでいたせいで、自分がどんな状況になっているのかもわかっていなかったようだ。

それこそ、周りはリュシエンヌのことを見ていながら、関わって面倒に巻き込まれたくないと一定の距離でしか相手にしていなかったこともあり、心から心配してくれる者が誰一人としていない状態でも、リュシエンヌが平然としているから大丈夫だと思っていたようだ。

大丈夫なんてことは全然なかったというのに。美人なリュシエンヌならば、自分が気にかけずとも他の誰かが気にかけてくれる。見た目で得をしているのだから、いざとなればどうにでもなる。

そんな風に思われていたことで、リュシエンヌは本音で話すことのできる友達も作れなかったのだ。

昔は一人だけいたが、その子はいつの間にやらまたの側から離れて二度と会えなくなった。そんな風に離れることになるのなら、友達すらいなくてもいいと思ってしまったことが始まりだということも、リュシエンヌは覚えていなかった。






リュシエンヌの周りには、急激に色んな物が増えていったが、嬉しいと思う反面、愛着がわかないように距離をおいてしまっている自分に苦笑してしまっていた。


「すっかり癖になってしまったみたいね」


ここには、ナディーヌはいないのに大事にしないようにしてしまう自分がいて、そんな自分が嫌で仕方がなかった。


「私は、今も昔も囚われたままみたい」


そんなことをリュシエンヌは1人の時にぼやいていた。


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