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しおりを挟むリュシエンヌの生まれた国の流行りをいくつか、最初にリュシエンヌに着させたのは、リュシエンヌへの嫌がらせではなかった。
養母とコルネリア、それにエーヴァウトは、見てみたかったのだ。リュシエンヌの美しい容姿とプロポーションで着飾るジスカールの流行りの服装を着た姿を。
「……」
それは、散々なまでにナディーヌや周りの令嬢たちに似合わないと言われていたドレスだったことにリュシエンヌは浮かない顔をしながらも、黙って着ていた。
浮かない顔を本人はしているつもりだが、その顔はいつもと変わっては見えなかったのだ。彼女は気づかないうちに仮面をつけて日常を送っていたようだ。
だが、養母たちはそんなリュシエンヌしか見ていなかったため、微妙な変化にも気づくことはなかった。
「凄く似合うわ!」
「リュシエンヌは、本当にスタイルがいいから着こなせるのね」
「コルネリアだと、こうもくびれがでないな。胸もないから、着こなすなんてことは……」
「お兄様? 何て?」
「い、いや、何でもない」
「……」
リュシエンヌは、新しい家族たちに褒めちぎられても、全く信じていないようで、浮かない顔をしたままだった。ただ、ぼんやりと遠くを見ていた。
そのため、ジスカールの流行りではなくて、この国の流行りのドレスを新調するべく、早速コルネリアはリュシエンヌとお揃いのものをと母親とあーでもない、こーでもないと色やらデザインやらで盛り上がっていたが、リュシエンヌはただ着せ替え人形のようになっているばかりだった。
終始楽しそうにしている養母たちのように笑うことはなかった。ただ、されるがままだったが、女性なのだから嫌がってはいないものとエーヴァウトは思っていた。
それでも、エーヴァウトは、どうしたものかと思っていた。女性陣だけでなくて、エーヴァウトも今回まじっていたのは、着飾る義妹の姿を見たかったのだが、どれを着ても自信なさげなリュシエンヌが気になってならなかったのだ。
「リュシエンヌ。気に入ったか?」
「……」
「どうした?」
「すみません。わかりません」
「わからない……?」
そんなリュシエンヌに何かとエーヴァウトが声をかけるも、わからないと答えるばかりだった。
それは遠慮しているわけでもなく、色々と言われすぎて、誤解したまま物凄く傷ついているようにしか見えなかった。
まさか、こんなにも美しいというのに変なことを言われて真に受けて生きてきたわけではないよな?と思いつつ、エーヴァウトは色んなことを聞くことにした。
その間も、母と妹たちは盛り上がってしまっていて、リュシエンヌとエーヴァウトの会話など耳には入っていなかった。
エーヴァウトにとっては、そちらの方がいつもの買い物だった。リュシエンヌのように大人しくしている女性との買い物なんてしたことがなかったのだ。
「リュシエンヌは、何色が好きなんだ?」
「え?」
「このままだと二人の好きな色ばかりになるぞ。リュシエンヌの好きな色を主張しておかないと大変だと思うんだが」
「私の好きな色……?」
リュシエンヌは義兄に尋ねられて、首を傾げていた。自分が何色を好きなのかもわからなくなっていた。好きなものを選んでも、欲しがる妹に片っ端から取られるのだ。
好きなものを選んでも、取られることがわかっているから、わざと選ばなくなった。そんな風に何年も、一番好きなものを選ばないようにして、己を守ってきたのだ。それは、無意識のものだった。
これ以上、悲しい思いをしたくないリュシエンヌの自衛からだった。幼い頃に一番好きだった色のことすら、リュシエンヌはすっかり忘れていた。
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