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しおりを挟むバルテレミーの本音をリュシエンヌは聞いたことと、彼の周りの子息たちからも、ナディーヌの方がいいと思われていることを知ったことで、心は更に疲弊していくことになった。
ほんの少し癒され始めていた心が、一気にどん底へと突き落とされるような気分を味わっていた。
みんながみんな、男性陣はナディーヌみたいな令嬢の方と付き合いたいと思っているのではないかとすら思えてきて、リュシエンヌは悲しくなってしまったのだ。
それに悲しくなるリュシエンヌは、そんな気持ちを自分が持っていることすら嫌になっていた。妹の幸せを願えない姉。とんでもなく酷い姉だとバルテレミーや両親が言っていたことが、至極真っ当なことに思えてすらいた。
全ては自分が悪いのに他人のせいにしている。そんな自分が嫌でならなかった。そんな風にはなりたくないと思っていた者に自分が変わり始めているようで、何かを強く思うことも願うことも、邪なものが潜んでいそうで、強い思いを持つことすら罪のようになってしまっていた。
それこそ、ナディーヌが家を継いだところで将来がどうなるかなんてことは深く考えなくてもわかりそうなことだ。だとすると我が家の終わりをみんなが望んでいるのではないかと思えてならなかったが、そこにたどり着いた自分も嫌で仕方がなかった。
そのうち、ナディーヌはリュシエンヌにバルテレミーからの贈り物も欲しがるようになり、それを両親があれこれ言って来る前にリュシエンヌはさっさとあげるようになった。
バルテレミーの贈り物を身に着けたいと思っていなかったリュシエンヌは、それに不満はなかった。
ナディーヌが、それらを上機嫌で身につけては、パーティーやお茶会に出るようになったのも、その頃からだった。
リュシエンヌはというと婚約者のくれる物をナディーヌにすぐさま譲るせいなのか。両親が買い与える物を欲しがられることがなくなり、それらを身にまとって色んなところに出席していた。
そんな姉妹を見るやいなや色んな令嬢たちが、リュシエンヌたちのところに集まって来ていた。
ナディーヌを見ては、素敵だと他の令嬢たちはこぞって褒めちぎったのだ。
「リュシエンヌ様より、似合っているわ」
「っ、」
妹を褒めちぎるのを聞いて、リュシエンヌが何とも言えない顔をしたのは、一度や二度ではなかった。
ナディーヌは、それを見て勝ち誇ったような顔をしてみせた。
「そうでしょう? ほらね。お姉ちゃんより私が着た方が。ずっとよかったでしょ? いらぬ恥をかかなくて済んだんだから、感謝してよね」
「そうね」
リュシエンヌは、周りの令嬢たちの言葉にこれまたショックを受けていた。どう見ても似合っているようには見えないが、こぞって褒めちぎるのだから、似合っているのだろうと思い、そこからすっかりリュシエンヌは自信をなくしてしまうことになった。
前までは、リュシエンヌのことを美人だと持て囃していたが、本当は社交辞令にすぎなかったのだろう。それに浮かれて馬鹿みたいだとリュシエンヌは思って恥じ入っていた。
ナディーヌは、ふふんと鼻を高くするばかりで、姉妹揃って、周りの令嬢たちがどんな顔をしているかを全く見てはいなかった。
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