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しおりを挟むリュシエンヌのことを婚約者のバルテレミー・スシュールや彼の家族も認めてくれたからこそ、婚約者になれたものと思っていた。
だから、婚約してから何でもした。彼の評判の方がリュシエンヌよりもいいように何かと気を遣ってもいた。
バルテレミーのことは、リュシエンヌが婚約する前から周りの令嬢たちがこぞって言っているのを耳にしていた。
だから、婚約してからもリュシエンヌは……。
「彼と婚約するなんて、リュシエンヌ様が羨ましいわ」
「本当ね。美男美女で、並ぶと大層絵になるんだもの。勝ち目はないってわかっているけれど、羨ましいわ」
「……」
そんな風に話題に登ることは初めてで、リュシエンヌは何と返していいのかわからなかったが、お世辞でも褒められ更には羨ましがられることにリュシエンヌは嬉しく思っていいはずなのに戸惑っていた。
バルテレミーが、他の令嬢たちからも評判がよくて、狙っている者は大勢いたこともあり、それを知っているからこそ、リュシエンヌは彼と婚約できたことに少し優越感を持ってもよかったはずだが、そんなものをリュシエンヌが持つことはなかったのだ。
婚約したいのは、婚約したかったのは、彼ではないのにとリュシエンヌは思うようになっていた。だからといって、別の誰と婚約したかったのかが、リュシエンヌにはどうしても思い出せなかった。ただ、リュシエンヌの何かが違うと訴え続けているのをリュシエンヌは気づかぬふりをし続けていた。
どこのパーティーやお茶会に呼ばれても、リュシエンヌは羨ましがられ、同じように素敵な子息と婚約できたらと言われる日々が訪れるようになり、リュシエンヌはナディーヌからしつこく持ち物を欲しがられることがなくなっていっていることに少なからず、安堵してホッとしていた。
ようやく、婚約者ができた姉に飽きて、自分も婚約者が欲しいと思ってくれたのだろう。
流石のナディーヌでも、婚約者を欲しいと言わないとリュシエンヌは思っていた。だから、絶対に取られないと思って油断していた。
もっとも、もし欲しがられても、彼のことを取られたところで何とも思うことはなかっただろう。むしろ、破棄となる口実になるのにと思うほどだったが、なぜそんな風に思うのかもリュシエンヌにはわからなかった。
ナディーヌは、それまで何でも欲しがっていたが、リュシエンヌが……。
「これは、バルテレミー様から頂いたものだから、あげられないわ」
「ふ~ん、そうなの。じゃあ、仕方がないわね」
「……」
婚約者からと聞けば、ナディーヌがすぐさま仕方がないと言って欲しいと言わなくなったのだ。
それを繰り返すうちに大丈夫だとリュシエンヌは思うようになった。変な話だが、それが残念にすら思えていた。彼の贈ってくる物も欲しがってくれたら、婚約破棄になる口実になるのにと思えてならなかったのだ。
何とも奇妙なことで、おかしなことだが、リュシエンヌはどうにもバルテレミーが好きになれそうになかった。
そんな彼をナディーヌに譲れたらと思ってやまないのだが、そう思っているせいか。ナディーヌのわがままが減り始めていくことになったのだ。
今更、いい子になられても困ってしまうと焦ることになったのは、リュシエンヌだった。それも、おかしな話でしかないのだが。
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