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しおりを挟むそんなことがあって、しばらくして両親のいないところで、ナディーヌは時々、こんなことを言い出すようになった。リュシエンヌのものを奪うだけで、満たされなくなったのだろう。
今日は、その時々の日となったようだ。声をかけられたリュシエンヌは、物凄く嫌そうな顔をしてナディーヌを見返していた。
こういう時が一番関わりたくないとリュシエンヌが思っていることなど、ナディーヌはお構いなしに言葉を続けた。
「やっぱり、お姉ちゃんの方が似合うから返すね」
「……」
そう言って押し付けてくる物は、壊されていたり、引き裂かれたりしているものばかりだった。
「ほら、受け取ってよ。返してあげるって言ってるでしょ?」
「……」
そんなものを返されても使えるわけもない。リュシエンヌがいらないと言って、受け取らずにいるところに両親が帰って来ると更に大変なことになることもしばしばだった。
「何を騒いでいるの?」
「お姉ちゃんが、やっぱり返せって言って、壊したの」
「……」
そんなこと一言もリュシエンヌは言っていないし、言ったこともない。
なのにナディーヌは、さもリュシエンヌに言われて怖い思いをしていたかのように目を潤ませて母に抱きついていた。
それを見て、父親はリュシエンヌに怒鳴りつけるのだ。父が怒鳴らないと母親が、リュシエンヌを怒鳴りつけていた。
いつも、こうなると怒鳴られるのはリュシエンヌだけだった。
何より何があったかとリュシエンヌに聞いたことも、この両親はなかった。いつも、ナディーヌの話しか聞かないのだ。
「リュシエンヌ! やったものを返せなんて、酷いことをするな!」
「そうよ。姉のあなたが、妹のものを取り上げるなんて、なんて酷いことができるのよ」
「……」
リュシエンヌは、姉だからと言われるが、その逆はなぜいけないのだと言いたかった。たかが2年早く生まれただけで、なぜリュシエンヌだけが、この家で我慢し続けなくてはならないのかがわからなかった。
その答えをくれる人は、この中にはいなかった。
リュシエンヌから取り上げたものをしばらくしてから、壊して、切り裂いて返してくるドレスや装飾品たちを見て、酷いことをされたのだとナディーヌが泣き叫ぶのを聞いて、両親はリュシエンヌだけを悪者にして怒鳴りつけるのだ。
ナディーヌだけをひたすら慰める両親。そして、リュシエンヌだけが責め立てられるのだ。
その一部始終を見聞きしているはずの執事や使用人たちは、そんな日常を見て見ぬふりをしていた。ナディーヌのことを告げ口して、追い出されていった者たちを見て来たことで、この仕事を失えば別の仕事に付くのが難しいとわかっているせいだろう。
リュシエンヌは、助けてくれようとした面々が大変な目にあっているのを知っていて、申し訳なく思っていた。だから、助けてほしいと思ってはいない。いないが、逆に妹に取り入っていれば安泰だと思っている面々にナディーヌのように意地悪いことをされることになったことには、げんなりしてしまった。
もう、ここにはリュシエンヌに味方してくれる者はおらず、自分たちにとって都合のいい人間にいかにして好かれるかを競っているかのようになっていて、リュシエンヌの目は日に日に死んでいっていた。
心が壊れ始め、その目が光を宿さなくなっていくリュシエンヌ。その傍らにあの花は影も形もなくなっていたことも大きく影響していたようだ。
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