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しおりを挟むそんなことがあってから、十年近く月日が過ぎた。
ジスカールという国の伯爵家には二人の娘がいた。長女で幼い頃から美少女だったが、成長するにつれて美人となっていた。彼女の2つ年下のナディーヌ・エヴルは、姉に全く似ていない。両親の子供だと一目でわかるような容姿をしている令嬢に成長していた。
二人とも髪の色は茶だが、サラサラしている方がリュシエンヌで、くせっ毛なのがナディーヌでそれも親譲りだった。瞳の色は違っていた。リュシエンヌは緑色をしているが、ナディーヌは灰色かがっていた。両親とも、妹と同じ色をしていた。
リュシエンヌは誰に似ているのかわからなかったが、妹たちに似ていないことにどこか、ホッとしている自分がいた。
「お姉ちゃん! これ、これ、ちょうだい!」
「……」
妹にその言葉を言われるのは、何度目になるか。リュシエンヌは、数えたことはない。数えようとも思っていないが、数えていても面倒くさいと思うことに何も代わりはないだろう。
飽きもせず、妹はそれを繰り返すのだ。そんな繰り返しに終わりが見えないでいるリュシエンヌは、ため息をつきたくなっていた。
それこそ、今週は始まったばかりだが、先週よりも多くなりそうなのは明らかだ。
姉妹揃って両親が買ってくれているものは同じでも、こうして届くたびに目をつけられているものは欲しがられるのだ。
「ねぇ、いいでしょ?」
「……」
いいも、悪いも、ナディーヌが言い始めたら、拒否権なんてリュシエンヌにはないようなものだと言うのにこの妹は、毎回、毎回、しつこく同じことを言わせようとしているのだ。それにリュシエンヌは、いつになったら飽きるのだろうかと思っていた。
飽きるどころか。姉のものを欲しがるのさえやめてくれ、話しかけずに無視してくれる方が、どんなにありがたいかとすら思い始めていたが、それをしてくれるような妹でもなかった。
それは、妹だけではなかった。姉妹の両親も、ナディーヌのような人たちだったことで、リュシエンヌの味方をしてくれることを期待できる人は家族にいなかった。
「どうした?」
リュシエンヌにとって期待どころか、ナディーヌの味方しかしない両親が、やってきたことにげんなりしてしまった。
逆にナディーヌは、味方がきたとばかりにいつものように両親に駆け寄って悲しげで、不満な声を出して説明していた。
それこそ、同じようなことを毎回しているのだが、両親が味方するのは決まってナディーヌの方ばかりだった。
「これが、欲しいから、ちょうだいって頼んでいるのだけど、譲ってくれないの」
「あら、リュシエンヌ。そのくらい譲ってあげなさい。あなたは、お姉さんなのよ」
「そうだぞ。そのくらい、さっさと譲ってあげないで、どうするんだ」
両親は、いつものようにナディーヌの言い分だけを聞いて、可哀想にと慰めた。すぐにリュシエンヌに姉なのだからと譲ってやれと言うのだ。それは、リュシエンヌが耳にタコができるほど聞いた言葉だった。
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