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しおりを挟むジスカールの国の中で不穏な空気が立ち込めるようになっていた。
そんなことになっていることも知らずにリュシエンヌは、新しい場所で一人で花に囲まれて、鼻歌を歌っていた。
以前までは、花に囲まれているのが一番安らげる時間だった。でも、今は以前までと何かが変わり始めていた。
たくさんの花が咲き乱れると乱獲されてしまうと思い、それを恐れてひっそりと誰かに気づかれない程度にリュシエンヌの望む範囲に咲いているところにいるようになったのだ。無邪気に楽しんでいた時期とは違う。その瞳に煌めくような輝きが薄らいでいた。
家の中も、外でも、ギスギスとしていて歯車が噛み合わなくなっているようで、リュシエンヌはそれでも花に囲まれることを選んでいるのは、そちらがまだ心休まるからにすぎなかった。
そんな日々が続いていたところで、懐かしい声がリュシエンヌの耳に届いた。
「あっ、ここにいたんだね!」
「っ、!?」
いつか会った同じくらいの年頃の子が、リュシエンヌを見つけて駆けて来たのだ。その後ろには、いつぞや見た時のように護衛の男性たちもつかず離れずの距離にいて、周りをきょろきょろと伺っていた。
リュシエンヌは、ここにたどり着いたことに少なからず驚いていた。誰にも見つからないようにと願っていたはずが、心のどこかでまた会いたいと思っていたようだ。
そんなことを願っていても、それが必ず叶うと何故思うのか。自分が特別だと思っているわけではないが、なぜかこの場所に近づけたことで、特別な何かを感じていた。
「よかった。前のところが、酷いことになっていたから、心配してたんだ」
「……」
「色々と探したけど、全然見つからなくて、もう会えないかと思っていたけど、会えてよかった」
リュシエンヌは、あの男のように根掘り葉掘り聞かれるのではないかと警戒していたが、その子はリュシエンヌの心配をしていたようだ。
「あんなことになった時に居合わせなかった?」
「……」
「もしかして、乱獲した人を見たの?」
ふと、あの時のことを思い出してしまい、リュシエンヌの顔色が変わった。
その変化に護衛が、リュシエンヌに詰め寄って来た。
「本当か? どんな奴だった? 人数は?」
「っ、」
リュシエンヌが、その男たちを見たと思って、その子ではなくて、護衛の方が近づいて来て、色々と聞いてきたが、それにリュシエンヌの身体が強張った。
あの時、怖い思いをしたことが蘇ってきて、泣きそうになってしまったのだ。
「よせ。彼女が、怖がってる」
「ですが、奴らのことをほっとくわけには……」
ぷるぷるとリュシエンヌが震えて、同じくらいの子供の後ろに隠れているのを見比べて、いたたまれなくなったようだ。距離をあけて、しゃがみ込んでから目線をあわせて、柔らかな声音で話し始めた。
「すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ」
「その、他のところでも、この花を狙って刈り取っているようだから、被害が大きくなる前に捕まえたいんだ」
「……」
「協力してもらえないか?」
大人たちは、やむにやまれぬ事情があるから聞き出そうとしていたようだ。
リュシエンヌは、他でも同じことをしていることに目を見開いてから悲しげにした。だから、街中でも見かけなくなり始めているのかも知れないとたまに街に行く時のことを思い返して、そんなことを思っていた。
「……他でも、あんな酷いことをまだしているの?」
リュシエンヌの言葉にその子は、そうだと言うように頷いていた。男たちも、同じようにしていた。
もっとも、数が激減し始めているのは、それで生計を立てている者たちが我先にと摘んでいるせいだということも重なっていたが、彼らは数が激減していても一時的なことで、そのうち以前のように何もしていなくても勝手に増えるものと思っていて、何か手を加えようとは誰も思っていなかった。
たくさん取っても勝手に増えるのが当たり前だったせいで、その花がどうして急に激減し始めているかなんて誰も気にしていなかった。
それこそ、摘み取っても、観光客も減ってしまっていて、その花を買いたがる者も減っているため、前ほどの収入は得られなかったが、それでも簡単に金が手に入っていたことが忘れられない者たちは、その花を見るとついつい刈り取ってしまっていて、売れないことで捨てることが増えていた。
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