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しおりを挟むそんなことがあって、リュシエンヌの心は疲弊し始めていた。
それでも、連れ回されることがなくなって、家にいるより一人で花摘みをしている方が気が楽だった。
リュシエンヌは、またたくさん咲いているところを見つけようとはしていなかった。そんな場所が見つかれば、根こそぎ持って行かれてしまうのではないかと戦々恐々となったのだ。
新しい場所の花畑が、前のようにならないかとリュシエンヌはずっとヒヤヒヤしていた。
「たくさんは、駄目。……たくさんあると幸せな気分になっていたのに。今は、たくさんあるとゾワゾワする。変な気分。たくさんないと不安になる」
リュシエンヌが望むような大きさのままにとどまることにホッとしつつも、そのことに不思議に思うことはなかった。
ただ、前よりその花を街のいたるところで見かけなくなっていたが、それに気づくこともリュシエンヌはなかった。
そもそも、街にリュシエンヌはよく行ってはいなかったのだ。その花が、どんな風に扱われ、どんな風に売り買いされていたかも知らなかった。
リュシエンヌの笑顔が曇りだし、至るところで咲き乱れていたことが、嘘のようになっていくのも、その頃からだった。
ジスカールで、結婚式をしようとしている一組のカップルがいた。
以前は、毎日のようにそこかしこで祝福の鐘が鳴り響いていたが、最近では少なくなり始めていた。
その理由は、結婚する人が少なくなったからではなかった。わざわざ、この国まで来て結婚をしようとする人たちが激減し始めたのだ。
「ちょっと、何なの?! こんなに小さいブーケしかないの?」
とある教会で新婦となる令嬢が、あの世界で一番美しい花と呼ばれていた花のブーケが、こじんまりしていることに不平不満をもらしていた。
それこそ、ジスカールで結婚するのかと周りに色々言われていたが、それでも無理やり結婚式をやるからと来たがらない者を必死になって、呼び集めたのだ。残念な式には絶対にさせられない。そのため、何かにつけて文句を言ってばかりいた。
「すみません。時期的にこれが精一杯でして」
用意した方は、それで誤魔化せると思っていたようだ。花のことなど、大して知らないのだ。やり過ごせると思っていた。
「これで精一杯ですって? そんなのあんまりだわ。私が、どれだけここでの結婚式を楽しみにしていたと思うのよ! ここに来たがらない人たちに無理言って集まってもらったのよ!? こんなの持って式をしたら、私が笑いものになるじゃない!」
怒鳴り散らす令嬢の声に彼女の母親が、何事だとやって来て娘の話とその手に持つブーケに眉を顰めたのは、すぐのことだった。
「これが、精一杯? そんなことないはずよ。従姉の娘が結婚した時と同じ時期なのに騙されないわよ!!」
母親の方も、一緒になって怒鳴り散らし始めた。その声は物凄く通っていた。
「従姉の娘の時は、この倍のブーケだったわ。お金をあれだけ出したのにこんなので結婚式をするなんて、娘だけでなくて、私までもが笑いものになるじゃない!!」
どうも、その従姉にこの母親は負けたくなかったようだ。もっともギャーギャーと母娘で騒ぎ立てたところで、ブーケが大きくなることはなかったのだが、騒ぎ立てずにはいられなかったようだ。
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