23 / 70
23
しおりを挟むリュシエンヌは怖い思いをしてから、別の場所で花を摘むようになっていた。そうなるまでにかなりの日数が経っていた。それでも、花に囲まれている方がリュシエンヌは落ち着けた。
「たくさん咲いている場所なんて探せば、すぐ見つかるのにどうして、あんな酷いことをするのかわからないわ。私が先に見つけた場所なのに」
前の場所のことが気になって見に行ったら、リュシエンヌが花を摘んでいたのが嘘のように一輪も咲いていなかったのだ。
何があっても、次の日には何事もなかったように咲いている花が、咲いていなかったのだ。
その光景が、リュシエンヌの目に鮮明に残ることとなった。
「っ、」
全部を刈り取ってしまったのだと思い、リュシエンヌは悲しくなって、それを見て涙がこぼれ落ちるのを我慢できなかった。その場でリュシエンヌは膝をついて泣き崩れて、しばらく動くことができなかった。
リュシエンヌは、この日生まれて初めて泣き叫んだ。
「……」
「どうした?」
「なんか、変な感じだわ」
「?」
リュシエンヌが、悲痛な叫びを上げていた日。ジスカールで、いつものように結婚式が執り行われていた。
その日、結婚をした花嫁は何組もいたが、みんながみんな不思議な感覚に苛まれることになった。
ブーケを持った途端、何とも言えない感情が沸き起こってきたのだ。
「っ、」
「ちょっと、どうしたの?!」
ある者は泣き崩れ、ある者は式の間に立っていられなくなり、そして悲痛な叫びをあげたのだ。
「どうしたのかしら?」
「さぁ?」
「でも、こっちが悲しくなる声ね」
「確かにそうね。あの声は、これから結婚式が始まるって声じゃないわよね。どちらかというとその結婚式ができなくなったみたいな声よね」
そんなことを式が始まる前に揃っていた出席者たちが話していた。
緊張で、新婦の気でもふれたのかと思われることになったが、花を手から離すと何事もないようにケロッとしたのだ。
新婦は、目をパチクリとして首を傾げてまでいた。
「どうなってるんだ?」
「きっと、緊張しすぎたのね。少し休めば大丈夫よ」
だが、その花のブーケを持つとおかしくなってしまい、これでは結婚式が終わらないのではないかとなり、新婦は気がおかしくなりそうになりながら必死に式が終わるのを耐えることになった。
その姿は、百年の恋も覚めるような血走った目をしていたり、鼻息荒くしていたり、イライラしている姿をしていて、新郎は誓いのキスをする時に腰が引ける者が多かった。
そんな姿を目の当たりにしたことで、新婚旅行も盛り上がらないままとなり、その後の新婚生活も、何とも言えない距離感が埋まることはなかった。
幸せいっぱいの結婚式となるはずが、その日を堺に次々とおかしなことが起こることとなるとは、誰も思ってもいなかった。
何より、なぜ、そんなことが起こり始めたのかに気づく者が現れることはなかった。
27
お気に入りに追加
260
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~
青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた
そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた
しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう
婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ
婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか
この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話
*更新は不定期です
本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす
初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』
こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。
私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。
私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。
『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」
十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。
そして続けて、
『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』
挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。
※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です
※史実には則っておりませんのでご了承下さい
※相変わらずのゆるふわ設定です
※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる