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それが、ある日、変化することになるとは思ってもいなかった。

リュシエンヌの日常に変化が現れることになったのだ。それも、突然何の前触れもなく、リュシエンヌの目の前に現れたのだ。


「凄い!」
「?」


リュシエンヌが、いつものように花を摘んで遊んでいる声が聞こえて、そちらを見た。とても可愛らしいリュシエンヌと同じ年頃の子が、目を輝かせて立っていた。その子は、輝くような金色の髪をしていて、青い瞳をしていた。

リュシエンヌは、その子を見て、自分の大好きな花のようだと思った。太陽に煌めくような輝きを持つ髪と同じようにきらきらと輝く瞳を見て、いつもなら笑顔となったが、その時はすぐに笑顔となることはなかった。

その後ろに護衛らしき男性が二人ほど従えていたのだ。彼らも、その花畑を目を見開いて何かに驚きながら感激しているように見えた。

リュシエンヌは年頃の子を見て、笑顔とならずに眉を顰めてしまっていた。ふと、妹を思い出してしまったのだ。その子にも、何か言われるのではないかと警戒したのだ。妹なら、気に入った場所から、リュシエンヌに出て行けと言うのが常だった。

でも、その子はリュシエンヌの妹のような子ではなかったようだ。

にこにこと笑顔のまま近づいて来て、こんなことを聞いたのだ。


「ここは、君のお気に入りの場所なの?」
「……」


リュシエンヌは、誰もやって来たことがない場所に突然、現れたことに驚きと警戒が消えないまま、静かに頷いた。

その子はキラキラとした目で、その花畑ではしゃぐ姿から他所の国から来た人だと思わせたが、この時のリュシエンヌには、そんな区別はなかった。

ただ、妹や両親とは違う人間だと思うくらいだった。この花を毛嫌いしている人ではないのだと思ってから、本当に美しい花のようだとその子を見ていた。可愛らしいのにリュシエンヌには、美しく見えたのだ。

リュシエンヌが、そんなことを思っていることなど知る由もないまま、あれやこれやとその子は、リュシエンヌに聞いてきた。

だが、後ろの男性たちが気になってしまい、リュシエンヌはその子との会話が弾むことはなかった。

同じ年頃の子は純粋なものに満ちていたが、大人の彼らは違うように思えて、それがリュシエンヌには怖いと思ってしまったのだ。何かを警戒して、ピリピリしているのだ。それが、リュシエンヌに向けられていないようだが、機嫌の悪い両親や妹の側にいる時のようでリュシエンヌは安らげなかったのだ。


「大丈夫。何もしないよ?」
「……」


それでも、チラチラとリュシエンヌが気にする素振りを見せていたせいか、その子と遊ぶ間はリュシエンヌの視界に入らないように気を遣ってくれるようになるのも、すぐだった。

その子が遊びたいからと追い出されることがないことにリュシエンヌはホッとしながら、笑顔も増えることになった。

リュシエンヌは、初めて同じくらいの年頃の子と楽しく遊ぶ日々を送って、元気いっぱいになっていた。

毎日ではなくとも、数日あいても、そこにいれば、どちらともなく会えるのだ。約束なんてする必要はなかった。

それが当たり前のようになっていた。


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