両親や妹に我慢を強いられ、心が疲弊しきっていましたが、前世で結ばれることが叶わなかった運命の人にやっと巡り会えたので幸せです

珠宮さくら

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その花は、国によって色んな呼び名で呼ばれるようになっていた。ずっと昔からジスカールで咲いているのにこの国では名前がなかったのだ。

いや、元々はあったのかも知れないが、ジスカールでは長らく雑草の中の雑草と呼ばれていて、色んな国の人たちが名前を尋ねたが、答えられた者は一人もいなかったのだ。 


「名前は、その、すみません。私の口からは言えません」
「は? 言えないって、どういうことだ?」
「その、この国では答えられないことなんです」
「……そうか」


何かと名前を聞かれたジスカールの住人には、そんな風に誤魔化してばかりいた。


「全く、名前、名前って、いい加減にしてほしいもんだね」
「仕方がないわよ。それで、帰ってから広めてくれてんだから、文句言ってたら罰があたるよ」
「そうかも知れないけど、名前を聞かれるたび、イライラするのよ」
「わかるよ。この花のことを聞かれると、前までイライラしてたけど、金になるんだから妥協しなきゃ」


そんな風に話す者もいたが、それを他国の者が耳にしたことはなかった。

そのため、正式な名前を口にすると差し障りのある花と勘違いされてしまい、各国で好きなように呼ばれるようになったのだ。

それこそ、本当の名前がわからなくとも、この世界で一番美しい花と言えば、ジスカール以外では通じるほどになるのも、すぐだった。

その呼び名に不満を示していたのは、ジスカールの花を売り物にしている住人だけだった。彼らは、一番ほど遠い名前だと内心で思っていたが、金に目がくらんでいる者たちが、それを表立ってあざ笑うことはなかった。内心で、馬鹿にしている者は多くいた。

一番美しいなんて、どこをどう見たら思えるのか。この国に住んで世話におわれることになれば、身をもって知ることになるだろうにと残念なものを見る目をして、他所の人たちを見ていた。

でも、その国から持ち出すことを花自体が嫌がるというか。何かの呪いでもかかっているかのように国境付近に近づくだけで、花は急速に枯れてしまうのも不思議でならなかった。

まるで見えない境界線が存在しているかのようにその花を持ち出そうとすると枯れて見る影もなく萎れてしまうのだ。


「こんな花、見たことがないな」
「一体、どうなっているんだ?」


美しい花を持ち出そうとするも、急速に枯れる花に首を傾げる者はあとを経たなかった。

色んな人たちが、あの手この手で試しても上手くいった者は一人としていなかった。頑なに花は、ジスカールでしか咲けないかのような強い何かを感じるほどだった。

何をしても増え続けられるのに国の外には決して出ることのできない何かがあるように思えてならなかった。


「この国に何かあるのではないか?」
「まさか、この花の良さもわからないような連中しかいないんだぞ。大した理由はないさ」
「……」
「きっと、価値がわからないところでしか咲かないんだろ」


そんなやり取りが何度となくなされていたのだが、花がこの国に咲き続ける理由にたどり着く者はいなかった。

たくさん咲き乱れるようになったのは、最近のことだが、その理由を誰もわかってはいなかった。わかろうとする者も一握りしかいなかったが、そんな人たちも深く追求する前に大したことではないとなぜか思ってしまい、他のことをするのに一生懸命となってしまっていた。

それも、奇妙なことだったが、そんなことになっていることすら気づいている者はいなかった。


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