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しおりを挟む貴族たちにとって、それほどの価値がある花に見えているのだ。
「本当に綺麗だわ」
「あぁ、この国に立ち寄ってよかったな」
そんな風に話しながら、にこにこと笑顔で幸せそうに寄り添って貴族たちが去って行くのを平民の女性たちは、呆然と見送っていた。
貴族の二人は、花を手にしたことが嬉しくてしかたがなくなり、これだけで自分たちがとても幸せな気分になれたようだった。
「こんなに美しい花が、この世にあるのね」
「本当だな。誰も話していないなんて、おかしな話だな」
「そうね。この国に立ち寄ることすら、何となく笑われそうで誰にも話せていなかったけれど。もしかして、率先してしていないだけで、みんな知っているのかも知れないわ」
「それもありそうだな。そんな話をわざわざしなくとも、知れ渡りそうな花だから、わざとしないのかも知れないな」
「でも、それって、勿体ないわよね」
「そうだな」
どんな宝石を手にするよりも輝くような笑顔を見せる伴侶を見て、男性は益々嬉しくなった。
なぜだが、心からそんな風に思えたのだ。その花を愛してやまない妻が持つ姿を見るだけで、幸せだと思えてならなかったのだ。
自慢するつもりはないが、知らない人もいるかも知れないと教えてやらなければとなぜか二人は同じことを思うようになった。
そんなことを思っていることも、残された平民の女たちには欠片も伝わってはいなかった。彼女たちは、手にしたお金に釘付けとなってしまっていたのだ。
「こんなに払うなんて……」
「……この花を旅行客に売ったら、一儲けはできそうだね」
「っ、!?」
そんな風に思った人たちが、旅行客相手に花を売るようになったのは、すぐだった。
最初は、そんなことしても大した小遣い稼ぎにもならないと思っていた面々も、飛ぶように売れるのを見ているうちに真似る者が増えることになったのも、割と早かった。元よりがめつい国民がそうさせていた。
でも、その花を持って帰国できる者は一人として現れることはなかった。
「そんな」
「どうなっているんだ?」
「わからないわ。両親にも見せたかったけれど、こんなことになるなんて」
「この花は、ジスカールでしか咲かないみたいだな」
「そんな花があるなんて……」
「やはり、この国に来ないと見れない花なら、なおさら実際に見てほしいものだな」
「そうね。すぐにでも見てほしいのは、家族ね」
「あぁ、そうだな」
あの花を買った貴族たちは、そんなことを言って帰国していた。彼らは、自分たちが見たままに色んな人たちに話をしたのは、自分たちが素晴らしいものを見たことを自慢したかったわけではない。
ただ、その花のことを知って、実際に見てほしいと思ってのことだった。
「あの国にそんな珍しい花が……?」
「まぁ、あの二人があんなに話すなら、ついでに立ち寄ってもいいかも知れないな」
「あの国でしか見れないなんて、不思議ね」
「大方、がめついジスカールの人間が考えたことだろ」
そんな風に疑心暗鬼になりながらも、気になった者たちが見に来るようになった。そして、話を聞いていた面々は、二人が力説するわけだと思うのもすぐだった。
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