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しおりを挟むそんなことが、どれだけ続いていたかもわからない。それが、この国の当たり前となってしまっていて、おかしいと思うことすらなくなっていた。
元より、この国の住人は心が広くはない。狭いにもほどがあるほどで、他の国よりがめつい者が多くいた。そういう人以外、この国に馴染めなかったこともあり、同じ思考や行動する面々が極端に多くいるせいで、当たり前が他所の国とはズレてしまっているのだが、そのことにも気づいていなかった。
同じような人たちに囲まれすぎるとそうなってしまうのかも知れないが、人間として大切な何かを失っていっていることにジスカールの者たちは気づいてすらいなかった。
ただ咲いて増えるだけでしかない花を目の敵のようにジスカールではしてきていて、それが当たり前となっていた。
それに負けじとその花は咲き続けることをやめることはなかったが、それが最近になって急に増え始めていたことで、変化が起こることとなった。
それは些細なことから始まった。
その日も、厄介で面倒くさい花を女たちが処理している時のことだ。
いつもなら、平民が何かしていることになど声をかけることもなかったのだが、その時の貴族の男性は無性に気になってしまって、思わず声をかけていたのだ。
「何をしている?」
「え?」
「そんなに見事な花を摘んで、……売っているのか?」
「へ? いえ、これは……」
そこに観光しに来ていた男性は、じっと平民の女たちの手元を見て声をかけたのだ。
明らかに身なりのいい貴族のようだ。そんな人に下手なことを言えば、大変だとばかりに挙動不審になるのも無理はない。
だが、声をかけた男性は、ただ、その花のことが気になって仕方がなかった。その花から目を離せずにいると声をかけた男性の横にいた伴侶にして最愛なる女性が不思議そうにしたのも、すぐのことだった。
彼女は最初、不思議そうにしながらも、その表情の奥には怪訝な顔が見え隠れしていた。平民の女に何の用だとすら思っていたが、彼の見ている先が女でなくて花なことがわかって、安堵すると共にその花の美しさに思わず微笑んだのだ。
「素敵だわ。お幾らなの?」
「っ、そんな、お金なんて……」
「売り物ではないのか?」
「あら、残念だわ。どこで買えるの?」
そんなやり取りを見聞きしていた別の平民の女性が機転をきかせたのは、すぐだった。
「普段は、直接取り引きしてないんですけどね。お二人共、他所から来られているようですし、そちらの言い値でお売りしますよ」
「そうか。それならば」
すると貴族たちは嬉しそうに惜しむことなくお金を渡してきたのだ。
最初に声をかけられた女性は、汚れている手をエプロンで拭きながら恐る恐る手を出して、チリンチリンとコインを乗せるのを見て目を見開いて驚いていた。変な声が出そうになるのをこらえるのが大変だった。
「っ、」
こんなにたくさん貰えるのかと驚いていたが、貴族たちは何てことない顔をして、にこにことしていた。
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