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しおりを挟むロザリーが王太子妃となって、数年が経つというのに王太子の末の弟であるリアム王子は、綺麗サッパリロザリーのことを忘れてしまったようだ。リアムは、パーティーでロザリーに会うなり、いきなり婚約破棄をすると指をさされながら言われたのだ。その声によって、楽しい時間を過ごしていたパーティー会場に居る人たちが、ざわついて静まり返ってしまった。
(これは、何かの余興かしら? ちっとも、笑えないけれど……)
ロザリーは突然、おかしなこと言われたことに怪訝な顔をしながら、扇子で口元を隠して、自分のことを指差す義弟を不愉快そうな顔にならないようにするのが大変だった。
「貴様が、学校で私の愛するルーシーに意地悪をしているのも、ちゃんとわかっているのだからな!」
「私が、気に入らないからって、酷いですよぉ~」
「……」
場違いなドレスを着た令嬢はルーシーという名前らしい。リアム王子にへばりついて、ロザリーとは初めて会うはずなのに不愉快な言いがかりをつけてきたのだ。
(今、学校と言ったわよね? そういえば、末の王子は、学園に入れる学力がないからと平民の者が多く利用している学校の方に入ったとか聞いたことがあったわね。……まだ、そこに通っているということかしら? 学園の方に入れないくらいってことね)
よく聞けば、ロザリーが通ってもない学校で男爵令嬢を虐めていたことを理由に婚約破棄したいようだ。通ってもいないどころか、既に王太子と結婚しているロザリーに何を言っているのか。全くわからない。
(学力のみならず、何かしらの病気でもあるのかしら? だとしたら、あまり強く言うのも可哀想よね。病気でないとしたら、強く言ったところで、理解できないかも知れないわよね)
ロザリーは、どうしたものかと悩んで返答に困っていたら、段々と相手の方が図に乗ってしまった。罵詈雑言を浴びせかけ、謝罪しろとまで言い出した二人にロザリーはピクリと眉を動かした。
男爵令嬢は言うにことかいて、土下座して謝れば許してあげるとまで言うのだ。眉を顰めすわにはいられない。
「……先程から、黙って聞いていれば、何なのですか?」
「なんだ? 開き直るつもりか?」
「あなた、義姉の顔も覚えていらっしゃらないの?」
「は? 義姉だと?」
「私は、王太子妃です。結婚式にも出席しておられたでしょう?」
「っ、あ、いや、ま、間違えたのだ!」
「……」
(何をどう間違えたと言うのかしら?)
「それと私も、ここにいる貴族の方々も、学校には通っていませんよ」
「え? そんな、わけないだろ?」
「学校ではなく、皆は学園に通っています。学力が足りない者しか、学校には入りません」
「なっ、それって、私たちがバカだって言うんですかぁ~? 酷いですぅ~」
「酷い? そちらこそ、身分もわきまえず無礼ではありませんか?」
礼儀の話をしても、気に触る話し方をする男爵令嬢には全く通じることはなかった。
そうこうしていると王太子が現れて、弟のやらかしたことに眉を顰めていた。間違えただけだと言い訳をすれども、謝罪をする気がないのも問題だ。
それだけでも頭が痛いのにリアムの隣にいる令嬢は輪をかけて馬鹿なようだ。
「王太子、ちょ~かっこいいじゃないですかぁ~。わたし、ルーシーって言いますぅ~」
自己紹介のつもりなのか名乗って、王太子に不用意に近づいて、あろうことか触れようとして、ルーシーは騎士に拘束されることとなった。
「いったぁ~い! 何、するんですぁ~!!」
「説明するのも面倒だな」
「二人とも、拘束して牢にいれろ」
「なっ、兄上!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人は自分たちが何をしたのか全くわかっていないようだ。
それどころか、自分たちが何を悪いことをしたのだと牢屋で文句を言い続けているらしく、牢番が困っているようだ。
国王は、義姉のことすら覚えていなかったことにすっかり呆れ果ててしまっていた。元より学校を卒業出来たら、どこに婿入りさせるかで悩んでいたこともあり、男爵令嬢と結婚させようと考えていた。
だが、男爵令嬢は、とんでもないことをしたとして勘当されてしまい、婿入り先をロザリーはなくしてしまったのだ。
それだけでは済まされず、末の王子であるリアムも、あんな騒ぎを大勢の貴族の前で起こしたことで、そのままにしておくわけにもいかず、リアムは学校を卒業する前に平民となることが決まったのだった。
ルーシーと釣り合うこととなったリアムだが、どちらも平民となった相手に見向きもしなかったようだ。
(迷惑な人の思考というのは、自分勝手で、都合よく考えるものなのね)
リアムたちのその後を王太子から聞き終えたロザリーは、複雑な顔をしている彼を労うことしか出来なかった。
リアムたちが居なくなり、学校の方も平和になったようだ。学力もあがり、学園に編入して来る者も増え出したと聞いてロザリーは苦笑してしまった。どうやら、リアムとルーシーに合わせたカリキュラムだったらしく、物足りなく思っていた平民が多くいたようだ。
こうして、厄介な人たちがいなくなったことで、ロザリーは何かと王太子を気にかけた。王太子の横にずっと立ち続けるために相応しい女性となるべく、日々を惜しむことなく頑張り続けたことで、ロザリーは王太子に溺愛されることとなり、幸せいっぱいで笑顔溢れる人生を歩み続けることが出来たのだった。
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