彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
8 / 31

しおりを挟む

当日の湊は山頂にたどり着くかなり手前で既にへばっていた。手前すぎて凛は、どうしていいかがわからなくなっているくらいだった。


「大丈夫?」
「平気だ」
「……」


凛が持って来たお弁当やらを持って、山頂を目指していたが、湊は早々に息を切らして進まなくなったのだ。


(そんなに重いかな? 私が、ここに来るまでは持ってたのに。山に登るとなった途端、持ち始めたけど、それもどうなんだろ。しかも、持った瞬間、重いことで文句言われたし)


凛は、あまりにもノロノロとしていて全く進まないことにため息をつきたくなっていた。お年寄りがどんどん登って行っているが、湊はもう既にかなり辛そうに見えてならない。

これは、山頂に行く頃には夕方になっていそうな勢いだ。


(彼の荷物を代わりに持つとかしてもプライドが傷つくわよね。はぁ、困ったな)


「大丈夫か?」
「俺ら、代わりに持とうか?」
「え? でも……」
「何なら、君のも持つよ? 俺ら、ここによく登ってるから」


そんな風に声をかけられて湊は拒んでいたが、このままだと日が暮れそうだと思って観念したのか。荷物を持ってもらって、登ることになった。かなり屈辱的な様子だが、荷物を持ってもらってもなお彼の足は遅いままだった。


「……なぁ、あれ、君のカレシ?」


凛は、頷いた。違うとこの時ばかりは言いたくなったが、嘘はつけない。


「そっか。これ、弁当だろ? 羨ましいな」
「すみません。重いですよね」
「いや、そんな重くない。むしろ、これが原因というより……」


チラッと湊を見た。荷物を持ってくれていない別の男性が、山を登ることすらしんどそうにする湊を後ろから押してくれているのが見えた。大した傾斜でもないが、階段が続いているせいで足があがらなくなったようだ。


(そんなに辛いかな? どんだけ体力ないのよ)


凛は、そんなことを内心で思っていたら、隣から……。


「体力なさすぎだろ」
「……」
「でも、夏場の弁当って、危ないんだよな」
「あ、わかります。彼が食べたいと言うので作ったんですけど、中に保冷剤とかいれてあるので、その分が重くなってしまってるんですよね。ここを登るまでは私が持ってたんで、持って登れるくらいの量にはしておいたつもりなんですけど」


そう、重くなってもいいとまで言ったのは、彼だ。それでも、重さには気をつけたのだ。なのにこれなのだ。


(これ、私が悪いのかな?)


「は? これ、頼んだのあっちなのか? マジか。ちなみに登山は?」
「向こうから誘われました。私は、秋あたりの紅葉を見たいと思ったんですけど、この季節の山も見たことなかったのでいいかなと」
「そうか。……あの体力で、よく登ろうなんて誘えたもんだな」


(確かに。そうなるよね)


凛は、全く同じことを思ってしまっていたが、言葉にはしなかった。それに頷きかけたが、苦笑するしかなかった。

その後、疲れ果てた湊は凛の手作り弁当を食べる気力もないとなって、荷物を持ってくれた男性2人に頼んで食べてもらうことになった。おかしな話だが、湊を山頂まで励まして登らせた人たちと予期せず弁当を食べることになったわけだ。


(これは、予想外すぎる。でも、これはこれで楽しいな)


彼らと凛は仲良く話しながら食べていた。前からの知り合いのような和気藹々っぷりにこんな風に出会って、楽しいのは珍しいなと思っていた。それこそ、いい人たちに会えたものだと喜んでいた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

片思いに未練があるのは、私だけになりそうです

珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。 その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。 姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。 そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...