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しおりを挟む当日の湊は山頂にたどり着くかなり手前で既にへばっていた。手前すぎて凛は、どうしていいかがわからなくなっているくらいだった。
「大丈夫?」
「平気だ」
「……」
凛が持って来たお弁当やらを持って、山頂を目指していたが、湊は早々に息を切らして進まなくなったのだ。
(そんなに重いかな? 私が、ここに来るまでは持ってたのに。山に登るとなった途端、持ち始めたけど、それもどうなんだろ。しかも、持った瞬間、重いことで文句言われたし)
凛は、あまりにもノロノロとしていて全く進まないことにため息をつきたくなっていた。お年寄りがどんどん登って行っているが、湊はもう既にかなり辛そうに見えてならない。
これは、山頂に行く頃には夕方になっていそうな勢いだ。
(彼の荷物を代わりに持つとかしてもプライドが傷つくわよね。はぁ、困ったな)
「大丈夫か?」
「俺ら、代わりに持とうか?」
「え? でも……」
「何なら、君のも持つよ? 俺ら、ここによく登ってるから」
そんな風に声をかけられて湊は拒んでいたが、このままだと日が暮れそうだと思って観念したのか。荷物を持ってもらって、登ることになった。かなり屈辱的な様子だが、荷物を持ってもらってもなお彼の足は遅いままだった。
「……なぁ、あれ、君のカレシ?」
凛は、頷いた。違うとこの時ばかりは言いたくなったが、嘘はつけない。
「そっか。これ、弁当だろ? 羨ましいな」
「すみません。重いですよね」
「いや、そんな重くない。むしろ、これが原因というより……」
チラッと湊を見た。荷物を持ってくれていない別の男性が、山を登ることすらしんどそうにする湊を後ろから押してくれているのが見えた。大した傾斜でもないが、階段が続いているせいで足があがらなくなったようだ。
(そんなに辛いかな? どんだけ体力ないのよ)
凛は、そんなことを内心で思っていたら、隣から……。
「体力なさすぎだろ」
「……」
「でも、夏場の弁当って、危ないんだよな」
「あ、わかります。彼が食べたいと言うので作ったんですけど、中に保冷剤とかいれてあるので、その分が重くなってしまってるんですよね。ここを登るまでは私が持ってたんで、持って登れるくらいの量にはしておいたつもりなんですけど」
そう、重くなってもいいとまで言ったのは、彼だ。それでも、重さには気をつけたのだ。なのにこれなのだ。
(これ、私が悪いのかな?)
「は? これ、頼んだのあっちなのか? マジか。ちなみに登山は?」
「向こうから誘われました。私は、秋あたりの紅葉を見たいと思ったんですけど、この季節の山も見たことなかったのでいいかなと」
「そうか。……あの体力で、よく登ろうなんて誘えたもんだな」
(確かに。そうなるよね)
凛は、全く同じことを思ってしまっていたが、言葉にはしなかった。それに頷きかけたが、苦笑するしかなかった。
その後、疲れ果てた湊は凛の手作り弁当を食べる気力もないとなって、荷物を持ってくれた男性2人に頼んで食べてもらうことになった。おかしな話だが、湊を山頂まで励まして登らせた人たちと予期せず弁当を食べることになったわけだ。
(これは、予想外すぎる。でも、これはこれで楽しいな)
彼らと凛は仲良く話しながら食べていた。前からの知り合いのような和気藹々っぷりにこんな風に出会って、楽しいのは珍しいなと思っていた。それこそ、いい人たちに会えたものだと喜んでいた。
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