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しおりを挟むそんなことが続いて、付き合い始めて最初の夏休みは、それなりに楽しかった。それなりというのは、凛は満喫できていたが、湊の方はそうでもなかったようだからだ。
多分、これまで凛が引っ越しばかりしてきて、家族との思い出ばかりが濃厚なことを聞いて、向こうも張りきってくれていたのだと最初は思っていた。全てはカノジョである凛を喜ばせたいがためだと思っていた。
「え? 山に登るの?」
「行きたがってただろ?」
「そうだけど」
湊から急に週末に行こうと誘われて、眉を顰めていた。その週末は別の予定が入っていたのだが、丁度予定が合わなくなった友達が数名出てしまい、それならば割引が使えないからとやめることになったばかりだった。
丁度良かったのもあったのだ。そうでなければ、約束していた方を凛は優先していた。
(紅葉する秋とかに行きたいとは思ってたけど、夏に登っても山頂なら涼しくて丁度いいのかな? 山登りって、この季節にはしたことなかったな)
凛は家族で山登りをしたことはあったが、紅葉を楽しみにばかりしていたこともあり、景色が気になったのは確かだった。
「それでさ。お弁当作ってきてよ」
「お弁当?」
「そ。荷物なら、俺が持つから。多少重くなってもいいよ。夏場なんだし」
「……わかった」
凛は、夏にお弁当と聞いて、眉を顰めたくなったが、そんな風に言われてしまうと断りづらい。行く場所の気温やら天候やらを鑑みてお弁当を作ることにした。
(まぁ、持ってくれるって言うなら、重くなっても大丈夫だよね。夏場にお弁当なんて、重くならないわけないし。猛暑になったら、諦めてもらおう)
ついつい、その辺も両親と出かけてばかりいて、全力でどこに出かけても満喫する癖がついていた凛が、本格的なデートをした時に大喜びしている姿を見て、湊も張りきってくれたようだ。その頃は、彼も喜ぶカノジョを見て嬉しかったのかも知れない。
でも、彼が有言実行な人とは違うところがあることまではわかっていなかった。本人も、自分の体力のなさやらが最低最悪だったことまではわかっていなかったようだ。みんなができること。特に女子の凛が平然とできることは、男の自分は難なくこなせると思っていたことが難しいと誰も思うまい。
(そういえば、友達とも、一緒に出かけると大はしゃぎできるけど、ずっとだと疲れないかって聞かれたっけ。まぁ、確かにこのテンションのままだと疲れるのは、確かだけど、旅行とかって、こういうものだと思っていたけど、違うのかな? そもそも、こんなに頻繁に夏休み中もデートするとは思わなかったから、ペース配分を間違えたかな?)
彼の方は元より友達が少ないらしく、凛のように同性と遊ぶこともあまりしたことがなかったようだ。
その上、部活もしていないし、凛のように部活はしてなくとも、実行委員やら頼まれたことを引き受けたりと忙しくもしていなかったことで、体力が違っていたようだ。元より運動系が苦手らしく疲労困憊になっていたが、凛がケロッとしているのを見てムキになったのもあったようだ。
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