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しおりを挟む最初は、物凄い方向音痴な凛のことをカレシになった須藤湊は笑って、少しでも長くいられる口実があっていいと言っていてくれていた。
そんなことを言われて、凛がそのことを忘れたことはない。嬉しかったわけではない。真逆な理由で忘れられなかったのだ。
「方向音痴な凛、凄く可愛いよ」
「……それ、あんまり嬉しくないかも」
(あんまりどころか。物凄く嫌かも知れない。好きで、方向音痴なわけじゃないんだけどな。まさか、それで私のこと好きになったとかないよね?)
凛は、それを聞く勇気がなかったため、有耶無耶なままとなっていた。はっきりと聞いておけばよかったのだろうが、その手のアドバイスを聞いていた人物によると凛は彼に対して有耶無耶にしてやり過ごすことが多くなっていた。
それが、長続きする秘訣のようにいわれていたのだ。恋人もできたことないのに。
方向音痴が可愛いみたいに言われて、複雑な気分になったのを凛は今もしっかり根に持っている。
方向音痴は可愛いものではない。長年、付き合っている凛は、心からそう思っていた。いつも、大概凛が泣かされることになるのだ。可愛いなんて思えるわけがない。
(それだけは、可愛いと言われても無理。わかってくれていると思っていたのに。なんか、モヤモヤするな)
凛は、湊に告白されて悩んだ末に親友の中西明穂の後押しがあって付き合うことになった。
告白なんてされたことがなかったこともあり、お試しで付き合うのもありのんじゃないかと明穂に言われて、そういうものかと付き合うことにしたのが始まりだった。
(なんか、この人の言葉にはイラッとくることが多いな。他の男友達とかでは、そんなことなったことないんだけど。むしろ、他の男子では許せることも、許せないような気がする。これが、特別で直してほしいからなのかな? なんか、違う気もするんだけど……)
そんなことを思っていた時点で、別れていればよかったのだ。なのに凛が、それをしなかったのは、その手の相談を親友にしていたことが大きく影響していた。そう、親友だからと絶対視することなどなかったのだが、凛はしてしまっていたのだ。初めてできた親友だったからかも知れない。
「いや、ほら、男は頼ってもらえると嬉しいもんなんだよ」
「そうなのかな」
何かと明穂は、そんなことを言っていた。付き合ったことのない凛は、一人っ子なこともあり、そんなものなのかと首を傾げながら思っていた。
(まぁ、私としては確実に家に帰れるって思うと安心していられるのは確かだし、助かるところもあるけど。彼にあわせて話すとなるとこっちが気を遣うことばかりなんだよね。でも、そっか。頼られると嬉しいものなのか。まぁ、付き合って、一ヶ月経ってないんだから、こんなものなのかな。……もう既にしんどくなって変な感じだけど)
親友がそういうのなら、そうなのかも知れないと凛は深く考えなかった。それに一緒にいられて、それなりに嬉しいこともたまにあって、それもあって方向音痴が酷くなるのを直そうと努力もしなかったのは凛が悪い。
湊のことを頼りきってしまっていたのだ。それが、彼の側に長くいられる理由になるのだからと思ってのことだ。
それがよくなかったのだろう。それまで、わからないことやどうするのがいいかを両親のどちらかに聞いていたが、初めてできたカレシのことをどちらに話すことも気恥ずかしくてできずに親友にばかり相談していた。
友達とも、カレシのことをあまり話をしていなかった。湊の評判がいまいちだったのを付き合い始めてから知ったことが大きかった。
親友には本音で話しても大丈夫だと勝手に思い込んでいて、何でも明穂に話しては彼女のアドバイスをよかれと思ってやっていた。
そのせいで、段々とおかしなことになっていくことになるとは、この時の凛は思ってもみなかった。
凛の周りには、よくなる方向にアドバイスしてくれる人は常にいたが、それを引っ掻き回したり、悪くさせようと思う人がいなかったこともあり、凛は頼る相手を間違えていたことに気づいていなかったのだ。
湊が可愛いと思っている部分を残そうとしたのが、そもそもの間違いだったことを凛もよくよく考えればわかったことだったが、それをしなかったのも浮かれていたからだろう。
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