彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
2 / 31

しおりを挟む

(て、転勤? 何で?? 聞き間違えたわけではないよね……?)


父から転勤すると言われたのは、これが初めてではない。正確に何回目になるかを凛は数えていないが、両手では足りないほど転校しているのは間違いない。

学期ごとに違う学校の生活を1年の間に過ごしたこともある。たった数ヶ月で転勤になるのも凄いが、父が仕事ができないから飛ばされているわけではない。その数ヶ月の間だけで、問題を解決したから、次から次へと問題となっているところに転勤になった結果、父はそういったことを任されることになったようだ。

仕事ができなさすぎて窓際に追いやられるのも考えものだが、仕事ができすぎて色んなところに行くことになるのも、中々に大変なことを凛も娘として身近で感じていた。

そんな父の血を色濃く引いているのか。凛も、これまでたくさん転校してきたが、そのたび上手くやってきていた。

いや、父と比べれば、上手くやれてはいなかったかもしれない。すぐに転校すると思って、やり過ごしていたところが多々あった。

でも、高校に入ってからは違っていた。違っていた理由もちゃんとあったのだが、凛は衝撃すぎて頭の中が真っ白になってしまって言葉が中々でてこなかった。頭の中では、思考は完全に停止しているわけではなかったが。

今更、引っ越すと聞いて驚くのも、変だと思われるかも知れないが、これまでとは事情が異なっていたのだ。どんなにたくさん転校していても慣れることはない。


「え? 転勤……? でも、私が高校卒業するまでは転勤は、もうしないって言ってたよね?」
「すまん。凛」
「……」


凛は、何とか言葉を紡ぐとそれを聞いて申し訳なさそうに謝る父を見ることになり、何とも言えない顔をすることになった。

いや、有能な父に頼らざるおえないところが出たのだろう。それでも、父だけが有能なわけではない。これまで、あり得ない数の転勤をしてきたのだから、3年だけ同じところに留まりたいというのも会社は理解してくれていると凛は父から聞いていた。

父の横には母も座っていたが、その表情は辛そうに見えた。


(二人とも、目の下にクマがある。何で、気づかなかったんだろ)


ここにきて、ようやく両親の顔をしっかり見た気がする。最近、何やら忙しそうにしているのには気づいていたのにちゃんと見ていなかったようだ。

これまで見たことないほど、疲れた顔をしていることに凛は、転勤と聞いたショックよりも、更にそっちの方が凛には物凄いショックだった。

転校続きなこともあり、両親とは色んな話をしていて親子の仲は他の家庭よりも良好だと思っている。それを凛は自慢に思っていたりするが、実際に自慢したことはない。

自分たちだって、新しい環境や状況なのに両親ら凛のことを何かと気にかけてくれていることを知っていたからだ。

友達になったかと思えば離れるような生活が当たり前だったため、家族サービスは中々濃いものがあったと思う。そう、濃厚もいいところで、もっと反抗的な性格となってもおかしくなかったのかも知れないが、凛に反抗期はまだ訪れていない。

両親がきちんと向き合ってくれるから反抗的にならなかっただけで、訪れてなかったわけではなかったようだが、この時の凛は転勤と聞いて初めて途方に暮れていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

片思いに未練があるのは、私だけになりそうです

珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。 その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。 姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。 そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...