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しおりを挟む古賀の思惑はともかくとして、その後に色んなことを聞かされることにはなったが、三千華はボランティアを続ける気は古賀に誘われた時は全くなかったのは確かだ。それが、ボランティアをやってみて気持ちがぐらついたのだ。
それほどまでに衝撃的な出会いをしていた。
(ボランティアしてみて、こんなに気になることになるとは思わなかったな。そもそも、あのお爺さんが私のことを誰かと勘違いしているだけなんだけど、なんか凄く気になる。職員さんたちも、びっくりしていたし。珍しいことだったのは間違いないんだよね。あんなに楽しそうに話しかけられると気になるものだよね。人違いしてるって、言える雰囲気でもなかったし)
老人ホームの職員の人に話をあわせてあげてほしいと言われて、その通りにしたが三千華はそんなことを言われなくとも間違っているとは言えなかっただろう。
それこそ、三千華は必死でどこかで会ったことがあるかと考えていたが、思い出せることはなかった。名前を間違えているだけで、あまりにも親しげに話すのもあって、どこかで会ったのではないかと最初に考えたのだ。
でも、どうやら違うようだとわかったのは、話す内容からだった。
それだけ楽しそうに懐かしそうに話しかけてきたお爺さんに違うと言って、がっかりさせて悲しませることの方が、三千華にはできなかったのだ。
(あんなに楽しそうにしてるのに職員さんたちは見たことないって驚いていたし、余程楽しい思い出に私と似た人がいたんだろうな。私に似た人か。会ってみたいな)
そんなことがあって、古賀たちのことで色々あったが、お爺さんのことが気になって仕方がなかった。
大学にいる間は、古賀の愚痴を数日聞いていた。他にも友達はいるだろうに古賀は三千華のところにわざわざ来て話を続けていたのだ。
(よく飽きないな)
三千華は、そんなことを思っていたが、それは周りも同じだったようだ。
古賀は飽きもせず話せていると思いつつ、その逆に三千華は根気強く言いたい放題に愚痴るだけの彼女の言葉を聞いていたのだ。
「よく付き合えるよね」
「私なら、無理だな」
「俺も。あの子、すげぇな」
三千華は、そんな風に周りに思われていたことを知らなかった。そんな風に話題にのぼっていることも、三千華は気づいていなかった。
ただ、自分に話しかけて言いたいことを吐き出す古賀をまっすぐ見ていた。古賀本人は、吐き出したいだけでしっかり聞いていてほしいわけでなくて、受け止めてほしいわけでもないのだろうが、三千華は彼女の目を見て受け答えするよりも、ほとんど頷いているだけに過ぎなくとも、それだけで古賀が言いたいことを吐き出せる手助けを無意識にしていることにも三千華自身は気ついていないようだった。
そんな姿を黙って見続けている男性がいた。
「……あの子、名前わかるか?」
「ん? 珍しいな。お前が女子に興味をもつの。喋りまくってる方が……」
「そっちは、どうでもいい」
「だよな。ずっと聞いてやってる方は、小瀬三千華」
「小瀬、三千華さん」
(?)
ふと、誰かに呼ばれた気が三千華はした。
「どうしたの?」
「ううん。何でもない」
「それでね」
(まだ、続くんだ。今日も、長くなりそうだな)
三千華は、それでももういい加減にしてと言うことはなかった。その辺、母に付き合っていたのもあり、吐き出し続ければ落ち着くと思っていた。
そんな三千華をじっと見続けている男性がいることに気づかなかった。
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