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第3章
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しおりを挟む「待て。お前は、人間だろ?」
「そうよ。人間よ。この身に妖精の血は一滴も流れていないわ」
「なら、何でここに入れるんだ!!」
怒鳴りつけられて、フィオレンティーナは不愉快そうにした。
「……なぜ、あなたにそれを証さなければならないの?」
「僕は、王妹の息子だ!」
それを聞いて、フィオレンティーナは初めて驚いた表情をした。目の前の少年が誰なのかがわかったのだ。
「それって……」
「それ、弟、違う」
「キャトリンヌ」
「そんなの、弟じゃない!!」
キャトリンヌは、怒りに燃えていた。どうやら、こんなことを先導した人物のようだ。
そんな風に怒りに燃える姿をフィオレンティーナは見たくなかった。自分とて怒り狂いそうになっているのを抑えているが、それ以上だった。
「わ、私たちは、この国の王子だ!」
「そ、そうだ。明かす理由にはなるだろ!!」
「貴様ら、誰にそんな口を……」
リュシアンは、兄弟と思ってすらいない、他の王子たちに怒り心頭となっていた。
王子であろうとも、たとえ王であろうとも、花の守り手にそんな態度を取るなどあり得ないのだ。
人間ごときが選ばれたからと言いたいのだろうが、そんな言い訳にすらなっていない。選ばれたことに変わりないのだ。手違いで選ばれたと言いたいようだが、それでも選ばれたのだ。
「……そう。ここに入れた理由は、多分だけど、私が行方不明になった花の守り手の身内に生まれた過去を覚えているからじゃないかしら」
「それって……」
「フィオレンティーナ様は、あの方の……?」
「いや、だが、そうなれば妖精の血が流れているはずだ」
「この世界とは、別のところにその人は行ってしまった。戻りたくても戻れなかった。それが、生まれ変わる前に私が覚えている前世の祖母よ」
「っ、」
「あの人の孫に生まれた過去を覚えているから、私は無類の花好きなのよ。側で、花の世話を一緒にしていた」
そう言いながら、コルラードの傷は、光に包まれて怪我はよくなった。
「私は、そこから、ここに生まれ変わった。この蔦と同じ花を祖母に見せようとして、事故で死んだの」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
「私は、自分が死にゆく中で嘆いたのは、苗が無残に踏み荒らされた姿だった」
「フィオレンティーナ様」
「その嘆きが強すぎたのか。記憶があるまま、生まれ変わった。だから、妖精の血は流れていなくとも、魂は未だにその人の孫のままなのかも知れない。前世から、ずっと祖母のようになりたいと思っていたから。今も、それだけは変わらない」
だが、そんなことで騙されるかと騒ぎ立てた。証拠がないと言いたいようだ。
(確かに証拠は、ここに入れたってだけでは心もとないか。……そうよね。未だに妖精すら見えないし。おばあちゃんが、話せたらと言っていたのは、妖精のことだったのが今ならわかる。でも、あそこに妖精はいなかった。いたら、あの頃の私になら見えていたはずだもの)
妖精のいないところで、祖母は花の世話をどんな思いでし続けていたのだろうか。
ここにどれほど帰りたいと思っていたことか。
フィオレンティーナはそれを考えるといたたまれないない気持ちになった。
「烙印持ちが、花の守り手にこれ以上、話しかけるな!」
「何だと?!」
「烙印持ちは、即刻追放処分になる。知っているはずだ」
「っ、私たちは、王族だぞ!!」
「そ、そうだ」
「例外はない。知っているはずだ」
「「「っ!?」」」
一番酷い烙印が現れたのは、アシルだった。他にも、ジョスランの姉や王までも、烙印が現れて追放処分となった。
烙印持ちは、近寄るのも憚られるらしいが、なぜか彼らは、そこまでではなかった。……と思っていたが、フィオレンティーナがいたから平気だったようだ。
強烈な不快感がフィオレンティーナがいなくなると現れるようになり、追い出すまでが大変だった。
その変わりのように烙印持ちたちには、妖精の姿も見えなくなり、声も聞こえなくなったようだ。妖精の血を引いていて、保たれていた美しさや長寿が失われてもいたようだ。
それこそ人間、人間と馬鹿にしていた以上に人間以下の何かになっていた。フィオレンティーナの知る人間よりも酷い見た目にはなったが、フィオレンティーナの周りにいた人間たちのようだと思うだけで、色々言われてもフィオレンティーナは自分のことに関しては平然としていられた。
そうしていられなかったのは、フィオレンティーナの周りだ。特に婚約者たちが、一番腹を立てていた。負けずに怒っていたのは、キャトリンヌだったが。
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