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第3章
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しおりを挟む刺繍を習えると思っていたクラリスは、珍しく浮かれていた。どうせなら、大勢で習おうとしてリディアーヌとペトロニーユや他の貴族の夫人にも声をかけた。
ここに来れる者なら、大丈夫だと思っていたが、そんなことなかったようだ。今回は、刺繍がメインなため、入って来れた者もいたようだ。
失礼な物言いをした者たちを早々に帰してしまいたかったが、それができずにそれなりの時間になってから帰した。
もちろん、無礼な態度を取った者には、もうお会いすることもないと見送ったが、あちらは今更ながら縋って来たが他の夫人たちは助けに入ることもなかった。
「あんなことを言うとは……」
「……申し訳ありません。私が、お声をかけた方です」
「いえ、人間が花の守り手になったことに何かあると思っている者は増えているようです。……陛下が、挨拶できないのがおかしいと言い出しているようだし、よもや入れるとは思わなかったわ」
そう、王が挨拶できないのも、人間が花の守り手に選ばれたことが原因のようにされていた。
フィオレンティーナに会えない者たちも、そのせいだと煽っているようで、派閥が生まれ始めていた。
頭が痛いことばかりのせいか。フィオレンティーナは、浮かない顔をずっとしていた。それをどうにかしたくて純粋に刺繍を習おうとしたのに。水をさされたようになって、フィオレンティーナはずっと沈んだ表情になってしまっていた。
「それにしても、刺繍って難しいですわね」
「えぇ、本当に」
3人とも、花をよく見ているはずなのに刺繍となるとその花の良さが全く表現できないでいた。
それぞれ、不出来もいいところのものを見てため息をついていた。指も痛々しいことになってすらいた。
それを妖精たちが、心配そうにしていた。夫人たちは、血の滲む指先よりも、刺繍の出来の悪さの方が辛かった。
「フィオレンティーナ様の刺繍が、どれほど素晴らしいかを改めて思い知りましたわ」
「本当にそうよね。これ1枚にどれほど時間を要したことか」
自分たちが刺繍をするようになって、そんなことを思うようになった。
花の守り手が刺繍を教えてくれるとあって、集まっていた夫人たちも次第に自分たちには無理だと悟ったようで集まりが悪くなっていった。
この3人だけは庭師の妻たちと和気藹々と刺繍を楽しんだ。少しずつコツを覚えていき、夫のためにと作ったものが完成すると各々の夫たちは、大喜びした。
その笑顔を見ただけで、指が痛そうになった夫人は嬉しくなり、つられて笑顔になった。
嬉し泣きしたのは、オギュストだ。フィオレンティーナが作った刺繍を持つ妻がずっと羨ましくて仕方がなかったが、彼女が自分のためにと作ったそれが、何より嬉しかった。
一時、結婚してから初めてぎくしゃくしてしまったのもあり、身にしみたようだ。いや、骨身にしみたようだ。妻に嫌われたら、生きていけないと。
それを見ていて、フィオレンティーナも婚約者のために作ってみようかと思うようになった。
それまでは、オギュストがくれた図鑑を見て刺繍をしていたが、やはり実物を見たことある方が生き生きとした刺繍ができていた。
キャトリンヌに教わった染め物もしてみたかったが、やる時は彼女と一緒にやりたくて、微妙な色合いを表現できずに前世の祖母の手掛けていた庭の風景の刺繍も、進み具合はいまいちになっていたのも、大きかった。
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