93 / 99
第3章
23
しおりを挟む刺繍を習えると思っていたクラリスは、珍しく浮かれていた。どうせなら、大勢で習おうとしてリディアーヌとペトロニーユや他の貴族の夫人にも声をかけた。
ここに来れる者なら、大丈夫だと思っていたが、そんなことなかったようだ。今回は、刺繍がメインなため、入って来れた者もいたようだ。
失礼な物言いをした者たちを早々に帰してしまいたかったが、それができずにそれなりの時間になってから帰した。
もちろん、無礼な態度を取った者には、もうお会いすることもないと見送ったが、あちらは今更ながら縋って来たが他の夫人たちは助けに入ることもなかった。
「あんなことを言うとは……」
「……申し訳ありません。私が、お声をかけた方です」
「いえ、人間が花の守り手になったことに何かあると思っている者は増えているようです。……陛下が、挨拶できないのがおかしいと言い出しているようだし、よもや入れるとは思わなかったわ」
そう、王が挨拶できないのも、人間が花の守り手に選ばれたことが原因のようにされていた。
フィオレンティーナに会えない者たちも、そのせいだと煽っているようで、派閥が生まれ始めていた。
頭が痛いことばかりのせいか。フィオレンティーナは、浮かない顔をずっとしていた。それをどうにかしたくて純粋に刺繍を習おうとしたのに。水をさされたようになって、フィオレンティーナはずっと沈んだ表情になってしまっていた。
「それにしても、刺繍って難しいですわね」
「えぇ、本当に」
3人とも、花をよく見ているはずなのに刺繍となるとその花の良さが全く表現できないでいた。
それぞれ、不出来もいいところのものを見てため息をついていた。指も痛々しいことになってすらいた。
それを妖精たちが、心配そうにしていた。夫人たちは、血の滲む指先よりも、刺繍の出来の悪さの方が辛かった。
「フィオレンティーナ様の刺繍が、どれほど素晴らしいかを改めて思い知りましたわ」
「本当にそうよね。これ1枚にどれほど時間を要したことか」
自分たちが刺繍をするようになって、そんなことを思うようになった。
花の守り手が刺繍を教えてくれるとあって、集まっていた夫人たちも次第に自分たちには無理だと悟ったようで集まりが悪くなっていった。
この3人だけは庭師の妻たちと和気藹々と刺繍を楽しんだ。少しずつコツを覚えていき、夫のためにと作ったものが完成すると各々の夫たちは、大喜びした。
その笑顔を見ただけで、指が痛そうになった夫人は嬉しくなり、つられて笑顔になった。
嬉し泣きしたのは、オギュストだ。フィオレンティーナが作った刺繍を持つ妻がずっと羨ましくて仕方がなかったが、彼女が自分のためにと作ったそれが、何より嬉しかった。
一時、結婚してから初めてぎくしゃくしてしまったのもあり、身にしみたようだ。いや、骨身にしみたようだ。妻に嫌われたら、生きていけないと。
それを見ていて、フィオレンティーナも婚約者のために作ってみようかと思うようになった。
それまでは、オギュストがくれた図鑑を見て刺繍をしていたが、やはり実物を見たことある方が生き生きとした刺繍ができていた。
キャトリンヌに教わった染め物もしてみたかったが、やる時は彼女と一緒にやりたくて、微妙な色合いを表現できずに前世の祖母の手掛けていた庭の風景の刺繍も、進み具合はいまいちになっていたのも、大きかった。
80
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる