82 / 99
第3章
12
しおりを挟む部屋にはハンギングバスケットや壁掛けの花が、飾られていた。
「素敵ね」
きっと、フィオレンティーナのために作ってくれたのだろうとそれを見て笑顔になっていた。コルラードは、これを作って寝不足になったようだ。
(それにしても、寝ている間に色々あったみたいね。1か月半は、寝ていたって言えるのよね……?)
勘当され、国からも出て行けと言われ、寝ている間にサインされ、見捨てられたかと思いきや新しい養子先があっさり見つかり、見目麗しい婚約者たちまでできていたのだ。
全部、寝ている間のことだ。着いて来いと言われても難しい。
(しかも、二人。それでも、少ないなんて……)
それでも、足りていないらしい。二人のことも、気に入らなければ仮の婚約者だから、解消できると言われてしまった。
決定権は、フィオレンティーナにあるらしい。
(でも、蔦が選んだって言ってたのよね)
チラッと蔦を見た。
「ねぇ、この二人と婚約していたい?」
蔦に普通に話しかけると凄い勢いで反応した。
「なら、婚約者は十分よね?」
ピタッと動きを止めた。
「……足りないの?」
すると再び凄い勢いで動いた。活きがいいな。
「……」
そういうことらしい。フィオレンティーナは苦笑するしかなかった。
(これは、私に決定権はないわよね)
だが、それでも周りはフィオレンティーナに決める権利があると言うのだから、何とも言えない顔をフィオレンティーナがするのも無理ないと思う。
フィオレンティーナは、途方に暮れながら、眠っている2人を見つめた。
「すまない。君に世話をさせるとは……」
「お互い様ですよ。それに私の方が何倍も、ご迷惑をおかけしたのですから、これじゃ足りないくらいです」
リュシアンは、目を覚ましてから恐縮しっぱなしだった。
「いや、花の守り手にそんなことは……」
「私がしたいんです。やらせてくれませんか?」
「っ、それが、君の望みなら」
リュシアンは、そんなことを言って最終的には折れてくれた。
コルラードは、申し訳ないとパニックになって大変だったが、貴族と平民の違いもあるのかもしれない。
(それだけのことをしてるのよね)
仮の婚約者たちと正式に婚約する前に養母に会うことになった。
オギュストの奥さんだ。とても綺麗な人だったが儚い印象の強い方だった。
「初めまして、フィオレンティーナです」
「初めまして、クラリスです。花の守り手の方にご挨拶に向かうべきところをこちらに来ていただいて、申し訳ありません」
「あの、花の守り手って、立場的には……」
「この国では、王であろうとも、あなたが生死の境を彷徨っている間は一心不乱に時間が許す限り祈っておりました。王も、花の守り手様にすぐにでも、ご挨拶に見えられたいところでしょうが、長らく公務が滞っていたため、それが片付くまで難しいかと」
「……」
フィオレンティーナは、そこまでなのかと思って頭を抱えたくなった。
クラリスは、王よりも先に挨拶するのも申し訳なさげにしていた。
頭痛がしそうだが、いつ会うことになるかわからない王のことより、目の前の養母のことだ。
「あの、養子にしてくださった件なのですが……」
「許可も取らずに養子にしたことでしたら、夫の代わりに私が謝ります。どうか、お許しを」
「いえ、謝罪すべきなのは、私の方です。何より、感謝してるんです。あの国を出て行くように言われても、行くところなんてなかったので。人間の私が、ここに来るって本来はあり得ないはずでしょうし」
「……あの」
クラリスは、申し訳なさそうにしていた。フィオレンティーナは、それを不思議そうに見た。
「はい?」
「正式に養子に迎えても、よいと言うことでしょうか?」
「え……? あ、こっちも仮の養子でしたか?」
「あ、いえ、その、お気に召さない時もあると思って用意しているようです。そのことをオギュストからは……」
「されてないです」
「はぁ、そうでしたか。それは、申し訳ありません。何分、私がこうですので、子供は望めません。ですから、養子に迎えようとは話していたのですが、ようや花の守り手を養子にするとは思っていなくて、手放し難くなっているのでしょう」
「……」
オギュストの姿を思い返して、そんなことを思っているとはフィオレンティーナは考えていなかった。いや、喜んでいたのはわかるが、養子のことも含まれていたのか。
「きちんと話した方が良さそうですね」
フィオレンティーナは、苦笑してしまった。
(そうだよね。養母になる方に挨拶をと思っていたけど、そこの確認してなかったわ)
フィオレンティーナは、遠い目をしていた。どうにも、貴族らしくあれと言われてもなれなかったフィオレンティーナだ。
今度は花の守り手らしくなれと言われても、初めてのことだらけで何が花の守り手らしいのかが全くわからなくて、困っていた。
そんなことに頭を悩ますより、花の世話がしたかった。花に関することをしたくてたまらなかった。
72
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢、使い魔を召喚したら魔王様でした
Crosis
ファンタジー
婚約者であるカイザル殿下に無実の罪で婚約破棄をされたシャルロット・ヨハンナ・ランゲージ。
その噂は魔術学園へ一瞬にして広まり学園生活は一変、イジメに近い事も受け始めたそんな時、実家である公爵家の書斎で一人籠っている時に目の前に召喚術が記された古い書籍が落ちてくる。
シャルロットはそに書かれた召喚術式を使い使い魔を召喚したのだが、召喚されたのはどうやら『VRMMO』という国の魔王様であった。
ファンタジーと恋愛を足して二で割った内容です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。


異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる