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第3章

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部屋にはハンギングバスケットや壁掛けの花が、飾られていた。


「素敵ね」


きっと、フィオレンティーナのために作ってくれたのだろうとそれを見て笑顔になっていた。コルラードは、これを作って寝不足になったようだ。


(それにしても、寝ている間に色々あったみたいね。1か月半は、寝ていたって言えるのよね……?)


勘当され、国からも出て行けと言われ、寝ている間にサインされ、見捨てられたかと思いきや新しい養子先があっさり見つかり、見目麗しい婚約者たちまでできていたのだ。

全部、寝ている間のことだ。着いて来いと言われても難しい。


(しかも、二人。それでも、少ないなんて……)


それでも、足りていないらしい。二人のことも、気に入らなければ仮の婚約者だから、解消できると言われてしまった。

決定権は、フィオレンティーナにあるらしい。


(でも、蔦が選んだって言ってたのよね)


チラッと蔦を見た。


「ねぇ、この二人と婚約していたい?」


蔦に普通に話しかけると凄い勢いで反応した。


「なら、婚約者は十分よね?」


ピタッと動きを止めた。


「……足りないの?」


すると再び凄い勢いで動いた。活きがいいな。


「……」 


そういうことらしい。フィオレンティーナは苦笑するしかなかった。


(これは、私に決定権はないわよね)


だが、それでも周りはフィオレンティーナに決める権利があると言うのだから、何とも言えない顔をフィオレンティーナがするのも無理ないと思う。

フィオレンティーナは、途方に暮れながら、眠っている2人を見つめた。







「すまない。君に世話をさせるとは……」
「お互い様ですよ。それに私の方が何倍も、ご迷惑をおかけしたのですから、これじゃ足りないくらいです」


リュシアンは、目を覚ましてから恐縮しっぱなしだった。


「いや、花の守り手にそんなことは……」
「私がしたいんです。やらせてくれませんか?」
「っ、それが、君の望みなら」


リュシアンは、そんなことを言って最終的には折れてくれた。

コルラードは、申し訳ないとパニックになって大変だったが、貴族と平民の違いもあるのかもしれない。


(それだけのことをしてるのよね)


仮の婚約者たちと正式に婚約する前に養母に会うことになった。

オギュストの奥さんだ。とても綺麗な人だったが儚い印象の強い方だった。


「初めまして、フィオレンティーナです」
「初めまして、クラリスです。花の守り手の方にご挨拶に向かうべきところをこちらに来ていただいて、申し訳ありません」
「あの、花の守り手って、立場的には……」
「この国では、王であろうとも、あなたが生死の境を彷徨っている間は一心不乱に時間が許す限り祈っておりました。王も、花の守り手様にすぐにでも、ご挨拶に見えられたいところでしょうが、長らく公務が滞っていたため、それが片付くまで難しいかと」
「……」


フィオレンティーナは、そこまでなのかと思って頭を抱えたくなった。

クラリスは、王よりも先に挨拶するのも申し訳なさげにしていた。

頭痛がしそうだが、いつ会うことになるかわからない王のことより、目の前の養母のことだ。


「あの、養子にしてくださった件なのですが……」
「許可も取らずに養子にしたことでしたら、夫の代わりに私が謝ります。どうか、お許しを」
「いえ、謝罪すべきなのは、私の方です。何より、感謝してるんです。あの国を出て行くように言われても、行くところなんてなかったので。人間の私が、ここに来るって本来はあり得ないはずでしょうし」
「……あの」


クラリスは、申し訳なさそうにしていた。フィオレンティーナは、それを不思議そうに見た。


「はい?」
「正式に養子に迎えても、よいと言うことでしょうか?」
「え……? あ、こっちも仮の養子でしたか?」
「あ、いえ、その、お気に召さない時もあると思って用意しているようです。そのことをオギュストからは……」
「されてないです」
「はぁ、そうでしたか。それは、申し訳ありません。何分、私がこうですので、子供は望めません。ですから、養子に迎えようとは話していたのですが、ようや花の守り手を養子にするとは思っていなくて、手放し難くなっているのでしょう」
「……」


オギュストの姿を思い返して、そんなことを思っているとはフィオレンティーナは考えていなかった。いや、喜んでいたのはわかるが、養子のことも含まれていたのか。


「きちんと話した方が良さそうですね」


フィオレンティーナは、苦笑してしまった。


(そうだよね。養母になる方に挨拶をと思っていたけど、そこの確認してなかったわ)


フィオレンティーナは、遠い目をしていた。どうにも、貴族らしくあれと言われてもなれなかったフィオレンティーナだ。

今度は花の守り手らしくなれと言われても、初めてのことだらけで何が花の守り手らしいのかが全くわからなくて、困っていた。

そんなことに頭を悩ますより、花の世話がしたかった。花に関することをしたくてたまらなかった。


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