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第3章

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みんなフィオレンティーナに会ったことはないが、花の守り手が国に入った時から、嬉しくてたまらなくなっていると同時にフィオレンティーナの深い悲しみも共有されることになった。

キャトリンヌの火傷が癒えたことを知って、あれこれ試したが、フィオレンティーナは目覚めることはなかった。


「彼女らしいな」
「えぇ、ご自分のことでお力を使ってくだされば良いのですが」


リュシアンとジョスランは、そんなことを思わずにはいられなかった。


「キャトリンヌの火傷は、すっかり良くなったのか」
「はい。見た目が癒えても、まだ体力が戻ってはいません。ですが、あの火傷を一瞬で治したのですよ。ご自分が、危ういというのに」
「……」


オギュストは、リディアーヌの言葉に苦笑した。それを聞いて、オギュストは妻がよくならないかと思ったが、それがよろしくなかったようだ。何も起こることはなかった。

キャトリンヌは、何も起こらなかったと知ってしょんぼりしたが、起きられるようになってから、一心不乱に祈り続けた。

そんな娘を見習って、両親も祈った。父は、仕事で忙しくしながらも、仕事に支障が出ない範囲で家でも、職場でも祈っていた。

それは、ジョスランとペトロニーユもだったが、刺繍が消えてしまった姉は……。


「どうして、消えてしまったのよ」
「「……」」


刺繍が消えたことを嘆き悲しんでばかりいた。そんな姿を見て、ジョスランたちは何も言うことはなかった。

国中が、フィオレンティーナのことで祈っているというのに彼女は、自分の大事なハンカチの刺繍が消えたことをひたすら嘆いていた。

彼女の父親は、花の守り手のことで嘆いているのかと思っていたが、違うとわかって眉を顰め、他の家族と同じように娘をほっといた。

もはや、ほっとくしかなかった。何を言っても、消えた理由が娘には皆目わからなかったのだ。

更には、ジョスランのしたことが許せないとばかりに責め立て続けるのをやめなかったことで、ついにはハンカチそのものが消えてなくなった。


「ジョスラン! あなたね!!」
「……」


ハンカチがなくなったことで、一番に疑ったのは弟だった。


「返しなさい!」
「……」


すっかり、美しい姉はどこかに消えてしまっていた。あまりにも荒んだ心を映している姿にジョスランですら、それが誰なのかが最初、わからなかった。


「姉上……?」
「はぁ? 何をとぼけているのよ! いいから、返しなさい。あれは、私のよ!」
「何の話ですか?」
「すっとぼけないで、ハンカチよ!」
「は? ずっと、姉上が持っていたはずでは?」
「消えてなくなったのよ」
「消えた……?」


消えたと言っているのにジョスランに返せと言うのだ。それに両親も、怪訝な顔をした。

もはや、己の手の中から消えたと言っている本人は、ジョスランのせいにしていれば、それでいいかのように怒鳴り散らしたのだ。

何かにつけて、弟を責め立てていればいいというところが前々からあったが、それが顕著に現れているようだ。


「いい加減にしないか!!」
「でも、お父様。ジョスランが」
「違うだろ。お前が原因だ。いい加減、認めろ」
「違う!!」


姉は頑なに自分の非を認めることはなかった。

そんなことがあったことを知った姉の婚約者とその両親は、信じられないものを見るような目で見ていたが、この世の終わりのように嘆くことに忙しい彼女は、気づいていなかった。

そんな彼女が、その後、婚約破棄することになるのだが、この時以上に泣くかと言えば、泣くよりも何で私が破棄にされねばならないのかと激怒したが、誰も周りにわかってくれる人がいないことに気づくまで、かなりの時間が必要になったようだ。

彼女は、そういう性格をしていたようだ。そこから、部屋に引きこもって出て来なくなったことで、家族や使用人たちも、彼女がとんでもないことになっていることに気づけなかった。


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